必然は偶然、偶然は必然 第七話

・・・だが実際にこれは全然有り得る事だ。

いくらダアトの大詠師であるモースが預言の為にキムラスカに協力しているとはいえ、神託の盾という自国への侵略すら辞さない過激な武力勢力を御せない惰弱な人物に許容の気持ちを持つのは難しいと言える。

ましてや神託の盾を廃する為の指示を以前一回たりとも出したことのないモースの事だ。自身に貴方の手駒であると六神将から言われればすぐ擁護に回るのは目に見える。預言があるのだから自分の言葉は聞かれるのは間違いないと。

だが流石に身内同士の争いに巻き込まれ何の代償も無しに許しを与えるには、キムラスカは流石に被害を与えられ過ぎている。ファブレ公爵邸襲撃しかり、カイツール軍港襲撃しかり、そして更にイオン誘拐の件でとなればもうインゴベルトやファブレ公爵だけの一存で見逃すには無理が生じてくる。そもそもからしてダアトはグランツ兄妹のルーク誘拐の疑いの件で潔白を証明する名目で公にアクゼリュス行きを命じたのだ、そこで更に罪の上塗りが入ればいかにインゴベルト達とてそのダアトの行動への断罪の声をなだめすかすのは難しいというもの。

・・・以前イオンがさらわれた時はアニスがモースに報告したことで大事にするべきではないと判断したが故か、はたまたその責をアニスに全て擦り付ける気だったからかは定かではないがそれはともかくインゴベルト達以外のキムラスカ臣下の耳に入ることはなかった。それは政治的な判断としては拙いながらもキムラスカ・ダアト間での摩擦を無くす意味で言えば、モースの選択は危険でありながらもイオンが無事に助け出されたことからなんとか綱渡りをしながらも成功と言えた。

・・・話は戻すがそんなことはおくびにも見せず表面上何事もなかったかのようにインゴベルト達とモースは接していたが、水面下ではそう言った今にも爆弾がある事・・・それをティア達は何も考えていなかった、特にティアは自身の行動の一環がインゴベルト達以外のキムラスカ臣下のダアトへの不満を増大させているとも思わずだ。






「別に俺はキムラスカの兵士の警備体制を疑いたくもねぇし、神託の盾がそんな行動を取って欲しいとも思っちゃいねぇ。ただ本気で叔父上に保護を求めるんならハッキリと海上に陣取る六神将も含めた神託の盾をダアトからちゃんと除籍処分して指名手配しねぇと、もし今度神託の盾がイオンをバチカルからさらったなら・・・下手すっとマジで戦争になると思うぞ、キムラスカとダアトで」
「「「・・・っ」」」
・・・そしてそんなインゴベルトとファブレ公爵とモース以外の面々の心を利用する気でいるルークはまずは壮大な脅しをティア達に仕掛けその身を震え上がらせる、今の神託の盾を裁ききれてすらいない現状では神託の盾の行動次第で戦争になると告げ。
「・・・それは、正直に申し上げて無理だと思います、僕は・・・」
そしてそのルークに乗ったイオンは深刻な表情で神託の盾の罷免は無理だろうと呟く。
「神託の盾の人事権はモースが握っています。もしモースに今の会話を伝えても、すぐには了承は返って来ることはないでしょう。そしてその間にも神託の盾が僕をさらいに来る可能性は十分に有り得ますが、そこでもし僕が無事でもキムラスカの方の命が失われれば即刻開戦の可能性も・・・そうなればアクゼリュス救出すらうやむやのまま、キムラスカとマルクトの和平が流れる事もありえます・・・」
「それは・・・正直そのような事態は避けたいですね、私がここに来た意味がなくなってしまいます」
そこからダアトの内部事情を明かしつつもマルクトにとって最悪の可能性を聞き、1人他人事のように聞いていたジェイドがようやく自身もその事態は避けたいと今更ながらに口を開く。



「・・・・・・決めました、アニス。僕はバチカルには残らず、秘密裏にダアトに戻る事にします」



「・・・え?」
そしてイオンはアニスを呆然とさせながらも少しの間を空けて確かに放った、ルーク達と同行するための決心の言葉を。










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