必然は偶然、偶然は必然 第六話

「んで、アイツはどうしようとしてる?これから」
『どうにかルークに追い付き意趣返しをすることくらいしか頭にないな。同調フォンスロットを開く事は船にルーク達が乗った事でとうに選択肢から離れているようだ』
「だろうな。流石に船襲って俺とイオンさらって後は俺だけコーラル城に置き去りなんてあまりにも不自然だし、航路も一度逆走までして同調フォンスロットを開く意味はない・・・っつー事で諦めたんだろうな」
「しかしまぁ、よくもあれだけルーク君に敵意を向けれる物だ。いくら謡将に全幅の信頼があり敵意を持たされたとは言え、あそこまでとなると普通に考えれば正直謡将の元から離れようと考えた事の方が不自然に思うが・・・」
「確かにねぇ。あの様子じゃむしろアクゼリュスでルーク達をはめようとしたってのがピンとくるわね」
ルークとローレライの会話にディムロスとハロルドが加わり、アッシュの行動の不誠実さをあげる。
『・・・我もそれは正直に不思議に思う。あれだけヴァンに心酔していながら、よくヴァンの元から去れたなとな。まぁあくまでもアッシュがヴァンに望んでいたのは高潔に、それでいて志が高く正しく自分を導いてくれる師匠像だ。それから外れた以上、心のどこかにヴァンに対するしこりが出来て離反するに至ったのだろう・・・かといって自国の民を傷付ける事を人のせいに転嫁して言い訳するというのは、高潔とは縁遠いと我は思うがな』
「そこのところをアッシュは色々履き違えていますから、そういった事はあまり考えない方がいいですよ。考えるだけ考えても悪い方向にしか行動しませんから、あれは」
そんな二人に対しローレライは頭を抱えるよう、イオンはやれやれといった風に答える・・・考え方に違いはあれど、そこに共通してあるのはアッシュに対しての心底からの信頼の無さ。それがありありと見える様子に二人も改めてあぁそういうものなのかと、納得して頷く。



‘コンコン’
「失礼します、ルーク様」
「・・・ん、なんだ?」
すると部屋の扉をノックしてから丁寧な態度で兵士が入室してきた。そのことに内心めんどくせーなと思いつつ、ルークは来室の訳を問う。
「ヴァン謡将がお呼びです、甲板に来てくださいとの事ですが・・・」
「・・・わりぃ。パス」
「・・・え?」
その兵士が用向きを伝えるが、ルークは青い表情でそれをすぐに拒否し呆気に取らせる。
「・・・ちょっと初めての船に酔った、今あんま動きたくねぇ・・・下手すっと吐くから、ヴァン師匠にはゆっくりさせてくれっつっといてくれ・・・」
「は、はい・・・そういうことでしたら・・・失礼します」
そこからルークの真に迫った吐きそうに手を口に添える演技を目の当たりにし、兵士はやむを得ないとでも思ったのかどもりながらもその意向を伝えると丁寧に退出する。
「・・・ふぅ、ご苦労さん」
「随分と熱の入った演技だったわね」
「とーぜん。理由なしに断ったらどうせ師匠ヅラしてそんなことを教えた覚えはない、なんて言う姿が簡単に目に浮かぶしな。それにあんな自分だけを信じろみたいな御大層な高説、今更聞いたって耳くそ程の価値もないどころか耳くそを無駄に増やす原因になっちまうぜ」
後ろ姿を見送り平然とした様子に戻った姿にハロルドが軽いノリで声をかけ、ルークは軽く肩をすくめこれまた楽しそうに返す。



・・・結局自分を使い捨てにする気でいるのは前の経験からわかっている、なのに何故自分だけを信じろという洗脳紛いな言葉をもう一度聞かなければならないのか。そんな理由はどこにもない、故にルークは即座に演技に走ったのだ。









・・・その後結局ヴァンは体調を悪くした(と伝えられた)ルークの様子を見に来ることもなく、船はケセドニアの港にたどり着いた。






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