必然は偶然、偶然は必然 第五話

「さぁ答えなさいティア、何故貴女はヴァンを襲ったのかを」
「そ、それは・・・個人的な事情で・・・」
「言えません、か?ならば仕方ありませんね。すみません、アッシュを捕縛していただけませんか?」
「ど、導師・・・それは・・・!」
矢継ぎ早にと次々言葉を発するイオンに、グランツ兄妹はしどろもどろに言葉を出すしか出来ない。
「それは止めてほしい、ですか?だったら言えばいいじゃないですか、貴方が襲われた訳を被害者か加害者・・・どちらかが言えばそれですむことなんです。なのにそれを言えない、それが貴方方への不審を生んでいることをわかられていないのですか?」
「「・・・っ!」」
そんな二人に言葉を発する事さえ許さないようイオンは痛みすら感じる冷酷な声色で痛い腹をグサリと抉り、冷や汗混じりの沈黙にまで追いやる。



・・・二人が何も言えないのは当然だ。ティアからすればヴァンに襲い掛かりはしたもののそれもあくまで今の時点で外殻大地を壊すという疑い程度の物で、その疑いが晴れれば兄を即座に許そうなどといった甘い考えを持って関係ないファブレ邸を襲ったのだ。あくまで個人でそれを暴きたいティアはダアトを巻き込むような大事にしたくないと思っている・・・もうすでに世界を巻き込んでいると露程も考えておらず。

対してヴァンはどういう疑いがティアから持たれているか、それを話しても話されるだけでも心象を大いに下げることは避けられない。そこからまかり間違った展開になって自身の計画を発動する前に全てが終わらせられたなら、と考えれば慎重になるのも当然と言えた。

・・・そんな二人の内心を巧みに利用して、反論を封じたのだイオンは。余計な事を言えば自身の首を締めると理解させる弁論を持って。



「・・・何も言えないようですね、でしたらアッシュは引き渡します・・・では、アッシュの捕縛をお願い出来ますか?」
「は、はぁ・・・わかりました」
そんな二人の様子を見て改めてマルクト兵士に捕縛をイオンは願い出、少々戸惑いつつも兵士は了承を返してその兵士と共に何人か他の兵士も集まりアッシュを捕縛していく。
「・・・してやったり、か?」
「いえいえ、どうせ六神将はアッシュを取り返しに来ますよ」
その様子に周り、特にヴァンが苦々しい様子をしながら見ている中でルークが口元にわずかに笑みを浮かべつつ周りに聞こえないように小声でイオンに話しかける。
「まぁそれでいいんですよ。六神将がそのような行動を取れば取るほど後々に彼らの首を締めると同時に、あの樽豚がラーメンに入れる少し前の状態に近づくんですからね」
「ラーメンに入れる少し前・・・あぁ、ヒモできつくグルグル巻きにされたチャーシューか」
そのルークに劣らず楽しげに例えつきで返してきたイオンに、ルークはチャーシューを思い浮かべると同時に気持ち悪そうな顔で舌を出す。
「うげぇ・・・んなチャーシュー入ったラーメンなんてぜってぇ食いたくねぇ・・・」
「いいんですよ、それは残飯処理のバケツ行きがハナから決定してるんですから。ユリアシティっていうバケツにね・・・ふふ」
自身の豊かな想像力でモースチャーシューの入ったラーメンを想像してしまった事を自身で恨むルークだが、イオンはユリアシティを汚物バケツ扱いして処分すると含み笑いをしながら言うとすぐさま気を取り直す。
「・・・まぁ俺が食う訳じゃねぇからいーか」
考えてみれば自身も自身で食べないくそまずいラーメンを作る身の上、その後どうなろうと知ったことではない。そう考えたルークはその完成図を頭の中からスッパリと追い出して冷ややかにアッシュ捕縛の様子を見ることにした。








13/16ページ
スキ