必然は偶然、偶然は必然 第五話

「アッシュは私が処分します、ですから何とぞアッシュの事は私にお任せください!」
「・・・いきなり出てきて何を言っているんですか、ヴァン?というより貴方、どこから出てきたんですか?・・・・・・いらないとこでいきなり姿を見せる辺り、ゴキブリみたいですね」
そんなイオンに焦りながらヴァンがアッシュを引き取ろうと捲し立てるが、イオンは至って冷ややかに冷静に返しつつ最後に誰にも聞こえない声でゴキブリ扱いする。
「私はルークを迎えに来るためにここに来たのですが、たまたまこの場面に出くわして・・・それはともかくアッシュは私の部下です、部下の不始末は私が処分致します!」
その声にヴァンは気付く事もなく簡易に訳を説明してから、アッシュを引き取れるよう強くイオンに再度願い出る。まぁそうだろう、ヴァンからすればアッシュは必要な存在だ。今ここでマルクトに引き渡される訳にはいかないのだから必死になるのは当然と言えるだろう。



・・・だがそんな事を言われて要求を易々と許すほど、今のルーク達は甘くはない。



「何言ってんだよ、師匠!そいつ俺を殺そうとしたんだぞ、そいつをかばうって言うのかよ!?」
「ル、ルーク・・・いや、そうではない・・・」
さっきの鮮やかな撃退劇はどこへやら、一転してアッシュをかばうヴァンを正当な理由でルークは批難して一気にヴァンをどもらせる。
「ヴァン、彼の言う通りですよ。アッシュが彼を殺そうとしたのは誰の目にもわかるれっきとした事実で、それを上司である貴方が勝手に自分で罰するからなどと言って誰が信用出来るなんて言えますか?普通は私情を交える物と思われるのが当たり前かと思いますが」
「うっ・・・」
更にイオンの追加口撃にヴァンは言い訳も言い切れずに言葉を詰まらせる。
「・・・それにこのような事は言いたくはありませんが、ティアから襲われた件で貴方に僕は疑いの感情を覚えています」
「え・・・?」
そこでイオンは神妙な顔でティアを引き合いに出し、ティアはいきなりのことに不安そうに戸惑う。
「彼女がファブレ公爵邸に譜歌を持って侵入し、周りの方々を眠らせ貴方を襲った件・・・この件に関して実行犯であるティアに罪があるのは本人にも言いましたが、襲われた側であるヴァン。貴方が何をしたのか、それが疑いになっています。実の妹であるティアに何を持って襲われるような事をしたのか、という疑問でね」
「「・・・っ!」」
そこからイオンは周りにも聞こえるようハッキリとした声と共に屋敷での出来事を暴露し、兄妹二人の息を強制して呑ませる。
「それを踏まえて聞きますが、ヴァン。貴方が身の潔白を証明したいというのであればティアに襲われた訳を仰ってください。それが誤解から生まれた物であれば僕もまだ貴方を信じる材料は残っていると判断出来ます。ただ自分で心当たりがない場合は・・・ティア、貴方がヴァンを襲った訳を話しなさい」
「「っ!?」」
更にその襲撃された訳と襲撃した訳を言えと命令を有無を言わさない声色で告げ、兄妹はイオンのあまりの毅然とした態度に信じられない物を見るような視線を向けてしまう。



・・・ただイオンはこんな風に導師としての威厳を発揮しても、この二人が素直にその言葉通り動かないと知っている。だからこそそれを活かす為に敢えてこのようなことを言っているのだ。








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