必然は偶然、偶然は必然 第五話

「・・・なぁ、ウッドロウ。聞いちゃいけないとは思うんだけど、1つ聞いていいか?」
「私が結婚しなかった事情を知りたいのかい?」
「うっ・・・まぁそうなんだけど、ちょっと視点が違うもんなんだよ。だから答えてくれないか?」
そこから人数が多少少なくなった場でルークは質問を言い出しにくそうに切り出そうとするがウッドロウに案外普通そうに中身を当てられ、動揺しつつもちょっと中身が違うから聞かせて欲しいと言う。
「なんだい?」
「まぁその、結婚してなかったわけだろ?王座に着いてから退位して死ぬまで。周りからは縁談とかの話があっただろうし、後継者の事もあるから尚更そう言った事って口酸っぱく言われたんじゃないのか?でも結局ウッドロウは結婚もせずに子供も作らなかった・・・その事で王家の血に後継者を残せないことを悩まなかったのか?それに子供もいなかったんなら、どうやってファンダリアは後継問題を片付けたんだ?」
「・・・ふむ、そういうことか・・・」



・・・本来だったらアッシュの役目だが、ルークとて王家の一員としてナタリアをあてがわれた身だ。王家の血を残す為には誰かとの婚姻を結ぶのは必須と理解している。だがウッドロウは結婚もせず、尚且つ退位して後の政権もちゃんとした形で残したと言う。



そんなやり方でうまくいくのか、そう言っているルークの声にウッドロウは不快さではなく納得した様子を見せる。
「・・・後継者の事については問題はないよ。私の後に就任した者はファンダリア王家の血を引いてはいないが真に民の事を考えてくれる者でね。その者に私は後を任せて退位したよ」
「反対されなかったのか?王家の血を引かない人間が王座に着くことは」
「・・・その事についてだが、ファンダリアでは以前私の父が国を納めていた時にクーデターが起こってね」
「クーデター!?」
そこから話を始めたウッドロウだったが、ルークはその中でクーデターと聞き驚き声を上げる。
「うむ、とは言ってもそれは国の在り方についてこう言ったやり方はどうかと言う声を父が押さえ込んだが故に起こった出来事でね・・・誰が一番悪いと言うわけではないが、父の頑迷さが一因で引き起こされたのも事実だと私は思っている。話を戻すがその時の反乱軍からの主張は簡単に言えば王家にだけ全てを決める権利があるのではなく、民の声を受け民の声を受け集まった代表者達が共に民と政治を行う為の民主政治を行うべきだという主張だったんだ」
「民主、政治・・・」
民主導の政治・・・王制や宗教による治世にない言葉に、ルークはなんとも言えない粟立ちを体に感じて震えた。
「そのクーデターが収まった後私はファンダリアの王として活動していたのだが、やはり歳を取っていく内に後継者はどうしたものかと考えるようになってね。そこでかねてより考えていたその民主制の政治を行うと発表したのだよ・・・まぁ確かに反対の声は大きかったが私がいつまでも王としていれるような年齢でなかった事と後継者がいなかった事、そしてその民主制に更なる国の発展の可能性があると国の皆が思ってくれたのが何よりの決め手でね。私は民が選んだ新たな王が出たのを見て、後継者を得たという気持ちよりはむしろ新しい時代の幕開けを見たような気持ちでファンダリアの王座を退いたのだよ」
「そうなのか・・・」



・・・かつては自身と一度敵対した男、ダリス・ヴィンセント。その男の考えた案を無駄にしたくなく、更にはファンダリアの為により良い政治を行いたい。そう言った思いで出したのが民主制の導入だった。



だがその考えを形にするまでにどれだけの時間がかかったのか・・・その遠大さの一端が垣間見える話ぶりにルークだけでなく、セネルにディムロスもただ頷く以外に出来なかった。
(・・・その案を出した男の妻に少なからず惹かれたが故に婚姻を結ぶ気にならなかった、そして時が立って国の為に男の案を練り上げ後継者を得た、か。随分と妙な物だな・・・)
だがただ一人、イクティノスは知っていながらも声に出さなかった。ウッドロウが婚姻を結ばなかったのには少なからずダリスの妻でありウッドロウが密かに思慕の念を寄せていたかつての仲間、マリーの存在があることを・・・







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