父という立場

・・・それで公爵が来たのは先程ルーク達が使っていた中庭だ。



「・・・すまぬな、帰るところを呼び止めてしまって」
「いえ、気にされないでください」
「いや、お前にどうしても言いたいことがあった・・・感謝を伝えたくてな、あの時の事を」
「ダアトでの事でしょうか?」
「あぁ、そうだ・・・あの時の事がなければ私はルークとまともに向き合えたかどうか・・・おかげでじっくりと話し合え、ルークの事を理解出来て解りあえた。礼を言わせてくれ」
「いえ、公爵様が後悔をされていなければそれで十分です(これなら大丈夫か・・・ルークも公爵と良好な関係を以前より結べているということを言っていたようだからな)」
それで早速二人きりになった所で爽やかな微笑を浮かべ礼を言い出す公爵に、クラトスは気にしないように言いつつ内心で先程の茶会でのルークとの事を思い出しつつこれなら大丈夫と思う。
「いや、そうは言うもののそれでは私の気がすまない・・・せめてもの礼だ、何か欲しい物があるなら遠慮なく言ってくれ。何ならファブレの人間として雇ってもいい。お前ならルークも喜んで迎え入れるだろう」
「・・・申し出はありがたいのですが、私はまた旅に出なければならぬ身。心遣いだけありがたく承ります。元々ファブレに来たのもハロルドに連れられての事ですから」
「むぅ・・・ならばせめて褒美でも・・・」
「気にされないでください。あくまであの時の事は同じ子を持つ親としてのささやかな助言を送っただけ・・・そのようなことに褒美をねだるつもりはございません」
「・・・傭兵にしては随分と欲の無いことを言うものだな。だがその言葉は今の私にとって心地いい・・・親としてと言われたことがな」
だがと尚も礼の褒美をと言い出すがクラトスの意気な言葉に公爵は笑顔を浮かべた、それが気持ちいいと。
「・・・分かった。引き止めてすまなかったな、クラトス。だが困ったことがあったらいつでも来るがいい。私はお前の助けになろう」
「いえ・・・では失礼します」
そして笑顔で別れを切り出す公爵にクラトスは快く頷き、頭を下げた後に場を後にしていく・・・









「・・・何の話をしていたんだ、クラトス?」
「プライベートな事を少し話されただけだ。特に変わったことではない」
「・・・そうか」
・・・それでファブレ邸から出たハロルド達は、セネルが公爵に呼び出された訳を聞くがクラトスが話す気はないといったように目を閉じながら返した答えに静かに納得する。
(これでいい。公爵も妙に話を拡散されることは望んでいないだろう・・・それに公爵はその立場もあって誰かに頼ることなど出来なかっただろうからな。それこそクルシスにいて誰も信じることが出来なかった。昔の私のようにな・・・)
その中でまた内心でクラトスは考える、本当に似ている立場にいると。



・・・そう、クラトスは励ますためでも嘘でも冗談でもなく自分と公爵の立場が似ていると感じていた。責任ある立場にいて誰にも相談出来るような気安い位置ににいる訳でもなく、尚且つ息子に対して普通に考えれば裏切りとも呼べるような秘密を持っている。これは単なる共通点と言うにはあまりにも重い物と言えた。



(だが今日の公爵は人を頼るとは言わずとも心の重荷を少しは下ろすことが出来たように見えた・・・あの様子なら公爵は大丈夫だろう。ルークとの関係もな)
・・・そしてそんな共通点を持っている二人だからこそ、クラトスは公爵の事はよくわかる。だからこそ今なら問題ないとクラトスは確信していた、あの姿ならと。












・・・その後、公爵はルークと共に反目しあうこともなく穏やかにキムラスカを発展させることに尽力していった。以前アッシュとナタリアに滅茶苦茶にされたキムラスカとは比べ物にならないほど、いい国とせんとして・・・



END









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