父という立場

・・・これはダアトにてキムラスカとマルクトの両陛下による会談が終わった後にあった、小さな話である・・・












「・・・む、お前は確かルーク達の護衛をしている傭兵だったな・・・」
「はい、ご無沙汰しています」
・・・会談が終わったからといって、それですぐにとんぼ返りをするわけにはいかなかった。いかに急いで帰る用事があるにしても、道程的にすぐに帰れる距離でも通行手段もない。それが故にキムラスカの人間もマルクトの人間も数日泊まることになり、公爵も例外なくダアトの中で過ごしていた。



そんな中でたまたま教会の中を歩いていた公爵はこれまたたまたま一人でいたクラトスと遭遇し当たり障りない会話を交わすが、少し考え込む表情を浮かべる。
「・・・クラトス、だったな・・・すまぬが少し私に付き合ってくれないか?少々話したいことがあるのだ」
「・・・分かりました。こちらも時間はございますのでお付き合いします」
そして意を決したよう話をと言い出す公爵に、クラトスは神妙に了承して頷く。









・・・そして二人が向かった先は現在公爵が使っている部屋だ。
「済まぬな、わざわざ・・・」
「いえ・・・して何用でしょうか?私のような傭兵と供をつけず、二人きりとは・・・」
話が出来る体勢になり公爵は礼を述べるが、首を軽く振った後に傭兵相手に無防備とも言える状況にまで何をとクラトスが理由を早速伺う。
「・・・少し聞きたいことがあったのだ。ルークの事でな」
「ルーク様の事・・・どのようなことでしょうか?」
「・・・うむ、実は私は戸惑っているのだ・・・ルークの変化について・・・」
「変化、ですか・・・(・・・この顔は公爵としての立場ではなく、父親として思い悩んでいるというような顔だな・・・)」
そして切り出されたのはルークの事だと言う公爵にクラトスはただ話を静かに受け止めるが、生の感情を浮かべた葛藤の見える顔に内心で父としての顔を見せていると感じた。
「・・・分からぬのだ、私には・・・ティア=グランツが屋敷に来る以前のルークと、導師にお前達と一緒にいるようになってからのルーク・・・どちらが本当のルークなのか・・・どのようにあのルークと接していいものかと・・・」
「・・・そして預言により死ぬと詠まれていたルーク様を見捨てると決断したこともその惑いを促進している、と・・・」
「っ・・・鋭いな・・・その通りだ・・・私は一度ルークを見捨てている・・・その私がキムラスカに戻った後、ルークとどう接するべきなのか・・・そう思うと、な・・・」
「・・・成程・・・」
更に語られる公爵の苦心に葛藤、そして最後に弱った心を隠しもせずうつむく姿にクラトスは静かに納得する。
(・・・父親として自信を失いかけている、と言う所か・・・さて、どうしたものか・・・以前は大爆発により戻ってきたアッシュを止めることを公爵は出来なかったとルークは言っていたが、おそらくルークとアッシュの二人を何も出来ず見殺しにしてしまったという負い目があったからこそだろうな・・・)
そしてクラトスはそっと思い出す、以前ルークが語った公爵についての話を。



・・・前の時アッシュがキムラスカに帰った時、公爵はその帰還を確かに喜んだとのことだ。夫人と共に。しかしアッシュが帰ってきて王の座について以降、キムラスカの為に尽力してきた公爵は途端に力がなくなったようになってしまったらしい。まるで魂が失われたかのように。

その姿にルークとイオンの二人は考えたとのことだ、何故公爵がそのようになってしまったのかを・・・それでクラトスが聞いた二人の結論とは、アッシュが帰ったことに安心したと共に緊張の糸が切れてしまいそのアッシュの暴挙に緊張の糸を再び繋ぎ直す事は出来ずむしろグチャグチャになったのではとの事だった。

その話にはクラトスも納得出来た・・・公爵はいなくなった二人の息子の為にもとキムラスカに必死で尽くしてきたのだろう。公爵としての立場に父親としての思いだったり預言に頼らないと決めたからこそのキムラスカの発展を願ったりと、様々な思惑の上で。だがアッシュが帰ってきた事はそんな公爵の複雑な精神状態の緩和をさせてしまった。今までの苦労が一気にアッシュの帰還により報われたような気になったのではと。だがそのように緊張が緩和された所で一気に今まで公爵にインゴベルト達が発展させてきたキムラスカをアッシュがグチャグチャにしてしまった、となれば公爵の精神的なダメージは計り知れない・・・そう考えるくらいに。










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