必然は偶然、偶然は必然 epilogue

「つってもやったことはそんな難しい事じゃない。あいつが自分はキムラスカって国に必要だって言い出した時にそれまでの政策の批判の声を聞かせただけだ。貴族だけじゃなく民の声も合わせて・・・それも直に会ってもらう形でな」
「直に、とは・・・大丈夫だったのですか?彼女に同情を向けられてはいささか面倒そうに思えるのですが、諦めを得られるか微妙になって・・・」
「言ったろ、織り込み済みって?・・・集めた貴族に民はナタリアに対し、不満を抱いていた人ばっかりだよ。それにその集団に対しても何が狙いかってのは初めから伝えといたから、理解して動いてもらったぜ・・・ナタリアを本当の意味で政治から引き剥がす為に、心を徹底的に叩いてもらう形でな」
「・・・抜かりはない、と言うわけですか・・・」
そして何をやったのかと言えば直接批判を聞かせたと言うものだが、サフィールは不安そうに首を傾げる。しかしルークが対策は十分と揺るがず笑顔で宣ったことに失念していたと頭を振る。
「まぁそれでも巷でナタリアに同情的な事を言う意見もなかった訳じゃなかったからな。実態をよく見たりしてなかったりした人とか偽物問題で追い込まれた境遇に同情する形でな。だからそこんとこはちゃんと選りすぐってもらったけど、その分効果は抜群だったらしいぞ。特に民からの声はめちゃくちゃ効いたらしい」
「民からの声、ですか・・・」
「これは俺の想像だけど・・・あいつは『ルーク』って存在といれない今、自分が民に必要とされてる存在だって思うことでかろうじて自我を保ってたんだと思う。けどそれが真っ向から否定されたことがきつかったんだと思うぜ?何せ自分を否定して記憶がないままの俺って『ルーク』が自分が民に施してた政策より更にいいものを施して、もう自分の影響は精々微々たるものなんて必要とされてるはずの民から言われたんだからな」
「・・・完全に人の心中を察することなど出来ませんが、まず確実に相当に追い込まれたでしょうね。彼女は・・・」
それでもとまだ手を尽くした上で万全に状況を整え挑んだ結果は大成功だと語るルークに、サフィールは重く頷く。
「あぁ、現にナタリアはそこからプツリと糸が切れた人形のようにブツブツと喋るだけになって場はお開きになったらしい。それからはもう特に何の行動も起こしてないみたいで、食事もロクに喉を通ってないらしいからな。多分今のままなら療養って名目でベルケンドにでも送られんじゃねぇかな。今は大人しくしてるのもあるけど変に復活してまだやれるんだって思われても面倒だし」
「でしょうね・・・今のままバチカルに置いていても特に益も無さそうですから、そうした方が無難でしょう」
そしてこれで終いだとナタリアの今の状況にもしもの場合の対策を事細かに口にするルークに、サフィールは眼鏡を押さえながら妥当と述べる。









・・・前から見ればナタリアの人生は様々な波はあれど、自分を通し抜いた人生と言えた。それも運、いや預言と言うものに助けられた上でだ。

これはある側面から見れば不幸な事で、ある側面から見れば幸運な事だ。何せ預言に詠まれていたが故に家族と引き剥がされて王女になったのだ。字面だけ見れば幸か不幸かは賛否両論分かれることだろう。しかし結果として偽物とバレはしても王女でいられ続けた事、そして実権を持てたまま女王になれたことは間違いなく幸運と言えた・・・しかしそれは他者を不幸に導く流れとなってしまった、それも大勢の他者を巻き込む形で。

その他者からすれば必死の懇願であった。ナタリアより非力な権力しか持たぬ身では自分達に降りかかる被害を抑えられない故に・・・だがナタリアはその声を全く受け入れなかった。民が大事と高尚な考えを持っていたにも関わらずだ。これはナタリアの頑迷さが引き起こした悲劇と言えた。周りの事を実質は全く考えられないし見ることも聞くこともない性質を持っていた為に。

しかしそれも権力を引き剥がした上で人々、もっと言うなら民の不満の声を直に聞かされた。聞きたくないことからは耳を塞いでしまえばいいし、それが出来る環境から引きずり下ろされた上で・・・これはナタリアにとってあまりにも残酷でいて、初めてに等しい衝撃であった。今まで全く民の不平不満に対した事のない身では。

・・・ルークが意図的に行動したという点は確かにある。しかしそれを差し引いたてしても、ナタリアはあまりにも己を通そうとし過ぎた上に周りを見なさすぎた。以前においても今回においてもだ。



・・・おそらく今ナタリアは自身に降りかかった不幸、そして民よりの否定に酷く心を苛まれているだろう。しかしいかに苦悩しようと逃れることは許されないのだ、自身の我を押し通してきたツケを支払う為の時間からは・・・









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