必然は偶然、偶然は必然 epilogue

「ま、民の福祉を充実させるって考え自体は悪くない。けどナタリアは政治ってもんを本当の意味でわかっちゃいなかった。政治ってのは本来私心を極力に抑えて冷静に勤め上げるべきもんだ。ナタリアはその点で高潔な発案を浮かびはしてもそこに至るまでどれくらい金がかかるとか、どのくらい考えて動かなきゃならないのか・・・それを全く考えに入れてなかった」
「だからこその貴族の反発、ですか・・・」
ルークは一応考えは誉めつつも他は駄目だったと言い切り、サフィールも眉を大いに寄せながらその言葉に納得する。
「まぁ更に言うならその福祉政策も根本的な意味で困っている人の解決策になってたかって言えば、正直あんまりそうとは言えるものじゃなかったんだよ」
「それは、どう言うことですか?」
「それは為政者としての在り方として当然の事だが、国ってのは税金を民からもらう代わりに民のためになる政策を施すもんだ。それが上に立つ人間の責任だからな。そしてもっと言うならその政策は人々の為になければならないし、時代の移り変わりで在り方に見直しはあっても出来る限り恒久的に使えるシステムでないといけない・・・その点、ナタリアはそう言った対策を取ろうとする素振りは一切なかったらしい。貧困層に金を配布すればそれで、と言った考えでな」
「・・・貧困層への資金配布の事、ですか・・・確かに貧困層は喜びそうな案で、貴族は嫌いそうな案でしたね」
続けてその政策自体もどうかと金の配布の事をルークが切り出せば、サフィールも心当たりがあったようで頷きを入れる。
「ま、考え自体はいいんだ。いくら取り繕ったって人には金が必要だから、その金を貧困層に渡す考え自体はな。でも大金をそんなポンと貧困層に使うなんてのが貴族にもじゃあるけど、貧困層より上のランクの暮らしが出来る人間からしたらどう思う?」
「それは、気分がよくないでしょうね。何せ自分達が稼いだお金を税として納めたら、そのように使われ・・・っ、まさか貴殿方はその声の事を調査したのですか・・・?」
「調査っつーか、ちょっと前にウッドロウから聞いたんだよ。ナタリアの政策の是非をな」
「そうなんですか?」
「あぁ・・・ルーク君の話を聞いて私が思った問題を上げると貧困層なら差別をしない、と言う差別をしたことなんだ」
「差別をしないと言う、差別・・・?」
そのままルークは更に続けていきサフィールはまさかと目を見開くが、バトンタッチとルークはウッドロウに視線を向けるとそのウッドロウが意味深な事を言ったことに首を傾げる。
「貧困層と一言で言っても色々ある。健常な体を持ち何かをするのになんら遜色もない者もいれば、反対に年齢であったり事故などをして体に異常を持つ者であったりするものなど様々だ・・・さて、ここで問うがそんな人々にただお金を渡したのならどうなると思う?」
「・・・そうですね・・・ナタリア元殿下の考えていた意味で言うなら貧困層なども潤うでしょうが、現実はそんなに甘くありません。貴方の言葉を踏まえて言うなら健常な貧困層はあえて働かずともある程度のお金が入ることに甘え、体に自由が利かない者ではそのお金がまともに使えるかどうかすら正直怪しいと言えます。特に後者でも体調などが著しく悪いものからすればお金を使うとかそれ以前の問題だと思いますが・・・」
「そう、そこが私の注目した所だ」
ウッドロウはそこで貧困層に前置きをして問いかけをするとサフィールが少し考えてその意を汲み取った上であえてマイナス面の事を口にすると、我が意を得たりと口を開く。
「聞いた話では彼女は自分で貧困層の実態を見たり聞いたりしてないとのことだったからね。前にバチカル城からルーク君と共に逃げ出した時、人々が彼女の姿をあまり見たことがないままに行動していたという事からそれは伺えた。その話を踏まえた上で私は思ったんだ。実態を見ないままに政策に踏み切っていいはずがないとね・・・」
そこからウッドロウは滅多にない憂いの表情を浮かべ、首を横に振った。ナタリアの行動は誉められた物ではないと・・・









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