必然は偶然、偶然は必然 epilogue

・・・もうアニスを含めたタトリン一家に救いはないと言うのは、イオンからすれば確実な事だった。

タトリン夫妻からすれば今までモースがけして見せないようにしていた借金の取り立ての実態をイオンが引き継いで、有りのままを見せた事で善意のみで金を貸していたなどという事はなかったと気付かされ、その上で到底一般家庭では一生をかけて返そうにも返せる筈もない借金を返さなければならなくなった。

その上でアニスはこの先どうあがいても牢獄暮らししか出来ない上に、脱獄しようとしたところでその先に希望など到底見えない未来しかないのだ。何故なら脱獄を成功させてもイオンから追手がかけられ、失敗したら死なのだから。安穏として生きられる一生など犯罪者には到底求められる物ではない。

それに長く牢獄暮らしを続けてアニスの精神がやられない保証はどこにもないどころか、むしろ遠くない未来にそうなる可能性が高い。愚かに幼い思考回路で今の時点で塞ぎこんでいるというのに同じような状況が続くとなれば、更に精神状態は追い込まれるだろう・・・そしてそうなれば、タトリン夫妻の精神を支えてきた数少ない支柱が折れる事を意味する。タトリン夫妻は他者や教団などに生きる意味を丸投げしてそれまで生きてきて、ローレライ教団も預言の意味を無くして改革をしてきていることからアニス以外に自身の心の拠り所に頼れる存在がいなくなるのだから。

・・・アニスはどうあってもダアトの手から逃れられず、タトリン夫妻はそのアニスが崩れれば深い悲しみを抱き生きていく意味を無くす。イオンの目から見ればこの一家の未来は最早希望などなく、未来と呼べぬ暗雲立ち込める時間が待っていると言えた。そしてそれはそう遠くない内に訪れると確信していることも・・・












「貴方は一応謡将率いる神託の盾から離反したからまだいいでしょう。起こした問題としてはティアの方が大きかったですからね」
「ティア・・・あぁ、ヴァンの妹ですか」
サフィールのその姿にイオンは話題を切り替えるがそこで出たティアの名に、サフィールは思い出したように声を上げる。
「えぇ。アニスと共に捕らえ神託の盾としての地位を剥奪してから僕がいない間、トリトハイム達はティアの尋問をしていたそうですが実際に対してみて驚いたと言っていました。支離滅裂な上に公私混同甚だしく、情緒不安定だと」
「・・・何ですかその嫌な単語の羅列は・・・」
それで捕らえた後の事を何でもないように語るイオンだが、サフィールはトリトハイム達が表したその言葉達に口元をひきつらせていた。
「まぁ一応なんでそう思ったのか聞いたんです・・・そうしたらそもそものきっかけは2年前におかしいと思ったヴァンを刺し、その後に改めてヴァンを止めて真意を問いたくて行動を起こした。けどそうは思っても兄だったヴァンを信じたいという気持ちがあったから確かめて止めたいと思う気持ちの中で躊躇いも生まれたが、今となってはもう兄を信じない・・・と、僕なりにトリトハイムの言葉を簡潔にしましたがそう言ったそうです。更に言うなら元々神託の盾に入りたいと思ったのも兄を支えるためということですがサフィール、まずここまで聞いてどう思いますか?」
「・・・少なくとも、支離滅裂に公私混同は十分当てはまっていると思いましたね」
イオンはそこでトリトハイムから聞いた話の一部だとサフィールに聞かせた上でどうかと問えば、呆れたように首を横に振る。
「話を聞けば聞くほどティアとやらはヴァンの事を好意的に思っていたのは容易にうかがい知れます。ですがだからこそ言えるのが・・・結果としてヴァンを泳がせアクゼリュス崩落どころか、レプリカ大地計画を実行する段階の所までこさせてしまった。実の兄を刺さなければならないと思うほど追い込まれたにも関わらずです」
「そうです。今からすれば5年前になりますが、そこまでの事になって事を自分の中にだけ留めておくなど普通はやってはいけないことです。しかしティアは兄が好きだからこそ兵士としてやらねばならぬことをせず、公私混同に走った。その上事が露見したと言うのにハッキリとした態度を取れず、心の迷いを捨てれずに言動不一致を繰り返していたのは支離滅裂と言えます」
そこからヴァンへの好意から公私混同に支離滅裂に繋がる理由をサフィールとイオンは語り合う。









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