必然は偶然、偶然は必然 epilogue

・・・イオンの言っていることは実に的を得ていた。元々タトリン夫妻はアニスの制止を笑いながらなんのこともないだろうと、極めて楽観的に受け流していた。無尽蔵に金を貸してくれる人がいる、だからアニスの心配はそんなに大したことじゃないと。だがそれはアニスの事を一切見ていない、アニスの立場に一切立って物事を考えてない事の裏返しである。

そんなタトリン夫妻は未だ借金を返すことを甘く見た上でアニスが如何様な苦労をしてきたのか、それを全く考えないままあっさり返すと宣った。いかにも自分達にも責任があるといったように悲しんでいたが、結果本当の意味でアニスの事を考えていなかった事を明かした上に自分達が死罪だけは避けさせたんだと上から言ってしまった事で。



「結果追い出された夫妻は何が原因でアニスが激昂したのか分かっていない様子でしたから教えて差し上げました。二人がいかにアニスの立場に立っていないかをね。それと親という立場にあぐらをかいてアニスを見ていなかったのかと言うことも・・・結果彼らは今までにないほど酷く青ざめた表情になり、僕にもう一度アニスに会わせて欲しいと嘆願してきましたがそれは却下しました。そんなことを何度も易々と許してしまえば嘆願すればなんでも意見を通せると思われかねませんし、彼らの様子では言ったことをただ鵜呑みにして本当の意味で何かを考えて発言するとは思えませんでしたからね」
「・・・そうでしょうね。彼らはそれまでただ言われたことを疑うことも考えることもろくにしなかった。そんな二人ではそれこそ何か言われなければ何も考えることもなく、アニスに会ったとしてもすぐさまボロが出て再び激昂されて追い出されるのがオチだったでしょう」
そんな二人の本性を見透かしたからこそ面会を許可したイオンはその後の事を自身の対応に予想を口にすれば、サフィールは自身もそう思うと力なくも同意を示す。
「ただ・・・アニスはその時に絶望したでしょうね。タトリン夫妻のあまりの物の考えなさに」
「だと思いますよ。彼女からすれば自分の為というのもあったでしょうが、夫妻の為にという気持ちもあったでしょう。しかし事実を知らしめても尚理解しない両親の姿に流石に糸は切れたでしょう。両親の為にってすがってた希望という糸は。それに終身刑も自分達が勝ち取ったんだ、と言わんばかりでしたからね・・・そうなればアニスもあまり気分がよくないのは簡単に想像がつきます。その立場にいることは」
しかしとアニスの方に話題転換をするサフィールにイオンも頷きつつ語る、その心境の推察を。
「今の時点でアニスは行動を起こしていませんが、聞いた話では相当に塞ぎこんでいるようです。おそらく今のままならアニスは心を閉ざしたままその生を終えるか、自分の未来の見えないダアトから脱走するかの二つくらいしかないでしょう。しかしそれをしたなら僕はアニスを許すつもりはありませんし、夫妻に遠慮するつもりもありません・・・その時は容赦なく、断罪します」
「そう、ですか・・・ちなみに今タトリン夫妻の様子は?」
「昔に比べて人のいい笑みを浮かべることはなくなったそうですよ。むしろ何とも言えない複雑な表情でずっといるようです・・・まぁ僕の言葉が効いた事に加えアニスの現在を知ることが出来ない事、そして借金と改めて真剣に向き合わなければいけない事に困ってると振る舞う人を助けられない事が苦になっていると思われます。そんな時にアニスが事を起こしたとなれば、もう心の拠り所はなくなるでしょう。自分達がどうすればいいのかという拠り所は」
「・・・どちらにせよ救いはない、ということですか・・・まぁこれは親子揃って自業自得、という感もありますからね。私が言えたことではありませんが・・・」
その推察からもしもの時の事をアニスだけでなく質問されたことでタトリン夫妻にまで言及させたイオンに、サフィールは自身の事は言えないがと言った上で自業自得だと首を力なくも横に振る。









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