必然は偶然、偶然は必然 epilogue

「ちなみにどのような処分を下されたのですか?流石にそちらの情報はこちらには来ませんでしたし、アニスを護送してきたと言った話もなかったのでどうなったかわからないのですが・・・」
「貴方はその事について聞いてないんですか?・・・あぁ、今の貴方の立場ではそこまでの事は伝えられませんか。いいでしょう、お教えします」
更に話を聞けと言わんばかりの空気まで察しイオンに仕方なく話すように話題を振れば、その状況を失念していたと思い出すように口にしならとサフィールに話すと切り出す。
「三年前、僕はダアトに戻ってから諸々の打ち合わせを兼ねてアニスの処分をどうするのか・・・それを審議の上でまずマルクトの考えを聞いてから決めようと手紙を送りました。それで数日後、マルクトから返ってきた返事は大詠師がいない今ならそちらに任せる・・・と言った簡潔な返事でした」
「大詠師がいないなら、ですか・・・信頼されている証、と見られていると取った方がいいでしょうね。ただ裏を返せばモースがいたら引き渡しに関して一言くらいはあちらも言ってきた可能性が高い」
「えぇ、僕もそう思いました」
まず一応手紙は出したが一任されたと言うイオンにサフィールは文面からモースがいないからだろうと察し、同意を示しイオンは頷く。
「そしてこちらに一任された訳ですが、マルクトへの後々の心証を考えると生半可な処置は取れないという事と様々な点を考慮して終身刑としました」
「終身刑?処刑ではないのですか?」
だがいざイオンから出てきた結論は終身刑と言う死に繋がらない物・・・その答えにサフィールは意外そうに首を傾げる。
「言ったでしょう、様々な点を考慮してと。その点はちゃんと考えてますよ」
「・・・例えば?」
「一言で言えば、タトリン夫妻です。貴方もアニスと接点があったのなら多少は想像がつくと思いますが、彼らがアニスが自分達が原因で死ぬとなればどうするのか予想出来ますか?」
「タトリン夫妻、ですか・・・」
すぐにイオンはその姿に誤解しないようにと口を挟み、伺うような声を向けられタトリン夫妻の事を切り出しサフィールを考え込ませる。
「・・・おそらく彼らは特に考えることもなくアニスの事をわからずにいた自分達が悪いから、などと言って身代わりでも申し出るでしょうね。それこそ何が犠牲になったのかや、アニスが犯した罪の重さなど真実考えることもなく」
「えぇ、僕達もサフィールの考えたようなことになると思いました。そして彼らの思うがままにさせてもそうしなくても厄介な事になりかねない。もし身代わりにしたならアニスは結果生かしておかなければならなくなる上に二人が身を挺して娘を守ったという一部の者からすれば美談と思える事実が残り、身代わりにしなかったなら彼らは僕達の判断に悲痛の内に嘆き悲しみ引きずる事は予想がつきます。それこそこちらが悪いという印象を周りに植え付けかねない程に・・・そう考えたが故に終身刑が妥当な所と見たんですよ」
「・・・成程・・・彼らは敬虔な教団信者であると共に、ダアト内でも有名な人の良さで有名でしたからね・・・そう考えれば彼らの影響力は馬鹿に出来ない、と言うことですか・・・」
そして考えた事を明かした上で更にイオンが告げたタトリン夫妻の取っただろう行動の推測に、サフィールも事態を重く受け止め納得の声を上げた。






・・・しかし何故そこまでイオン達が言うのかと言えば、ダアトという地がローレライ教団の聖地と呼ばれる場所で元々から他国に介入はしても介入されることはまずない土地であるからだ。聖地との認識があることに加え、人がいっぱい住むには無理がある島特有の土地の狭さがあるが故に
(ただ例外としては他国から移り住める人間になるには神託の盾として軍に入るか、ダアトに住むようにという預言に詠まれたかどうかくらいがすんなりダアトに移り住める条件になる。勿論住もうと思えば手続きを取れば住むことは可能だが、それを望んでいた教団の信者が前は多数いたために簡単な事ではなかった)

そんなダアトが一種の閉鎖された環境だからこそ、情報と言うものは出回れば狭く人々に知られるものとなる。それが刺激的なものとなれば尚更だ、人は刺激を感じれば何かを思わずにいられないのだから。

・・・もしそこでアニスの件でタトリン夫妻が異義を見せ、抗議でなく嘆願をしたとなればどうなるか?・・・それは少なからずダアト内を混乱させかねない事態が起き得るという事だ。ただ混乱と言っても理はイオン達にあるから大多数はこちらにつくだろうが、向こうは敬虔な教団信者であったことや人柄を自身らは自覚はせずとも武器とし同情に訴えかけるだろう事は容易に想像がつく。そうなれば少なからず面倒になるのは確かだった。








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