必然は偶然、偶然は必然 epilogue

「思えば私は神託の盾でいることに知らず知らず甘えていたのでしょうね・・・何をやってもヴァンやモースが協力した上で揉み消してくれて、六神将には時には酷い言葉を送られましたがそれも言ってみれば人との付き合い方の一種の在り方・・・その恵まれた、いえ間違った優遇のされ方に染まりきっていたのでしょうね私は。何をやっても許されるし見捨てられないと言った、怠惰な環境にいることで」
「・・・そこまで言う、ですか?ディスト・・・」
「えぇ、アリエッタ。あの環境はある意味で毒だったと私は思いました。理想を追い求めるが故に、何も嫌なことに現実的な事を考えようともしないし出来ない・・・そんな心理状態になる毒だと」
「「・・・っ」」
そのままディストはいかに今までの環境が甘く毒だったか、そう語りアリエッタとリグレットの二人は苦い顔付きになる・・・ディストの言っていることが二人にとっても当てはまる事だったが故に。
「・・・どうやら貴女方も思い当たる節があるようですね。ただそれを私は気付けないままずっと過ごしていましたが、その事に私は気付きました。そしてその精神状態でアッシュの事を見たら、自分でも驚くほど心が冷えていることを自覚したんです・・・同じ穴の狢であり都合のいい存在としか認識していない貴方と私に、そんなことを言う資格があるのかと思っていた事を批難する気持ちで」
「・・・それであんな事を言ったんですね」
「えぇ・・・今更ですが、私はいかに自分が周りを見ていなかったのか・・・それをアッシュから自覚しました。そしてそう思ったからこそ私は神託の盾を辞めてこのグランコクマに残りたいと思います」
「・・・いいのですか?」
そんな二人にさっと視線をやって再び自分の気持ちを吐露していくディストは神妙な面持ちで最後にここに残ると宣言し、イオンがその決断に確認の言葉を投げかける。
「はい、貴殿方は前のように私にマルクトに残っていただきたいようですからね。それに神託の盾に残ったとしても、私にやれることなどそう多くはないでしょう。元々私には兵を指揮して人をまとめると言った才能も下っ端の兵士として動けるような素養もありませんからね。でしたらここに残った方がいいと思ったんです」
「そっか・・・それでいいならありがたいけど、本当にいいんだな?」
「・・・本音を言うなら、ここで色々考えたいからなんです」
その返答に残る方がメリットがあると答えるディストだがルークの再度の確認に、顔を下に向けながら重く返す。
「おそらく導師が言われたよう、ここでいい扱いを受けることなどそうそう都合のいいことがあるとは思えません。ですがもう・・・ネビリム先生にすがれない以上、それ以外の生き方を考えねばなりません。ただ今の私ではまだその未練を全部断ち切れそうにありません・・・ですからせめて、ピオニーとジェイドのいるこのグランコクマで未練を断ち切る為にも考えたいんです。まだかつての幼なじみに対してその縁を抜きにして物事を考えるのは無理ですが、それを乗り越えるにはあえてこのグランコクマにいることだと思いますので・・・」
「あえて乗り越える為、ですか・・・」
・・・ディストの口から語られる言葉には確かな葛藤が込められていた、必死にあがきもがいて先に進まんとする葛藤が。



様々な矛盾と苦悩の上で絞り出したその決断に、イオンの声を始めに皆が重くその姿に集中する。
「・・・わかりました。そういう事でしたら断る訳にはいきません。先程言ったよう、明日にでも貴方の身柄はピオニー陛下にお預けするよう口添えをしようと思います」
「・・・すみません、ありがとうございます」
少し間が空き、イオンはそんな考えに対し了承と協力の旨を頷いて返す。ディストはその答えに頭を上げてから再度頭を下げた、礼をちゃんと言うために。










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