必然は偶然、偶然は必然 第二十二話

「・・・ま、とりあえずだ。今日はこのままここにいろよ。また一々呼びに行くのも面倒だしな」
「・・・一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん?なんだ?」
そんなディストにこれ以上言葉を向けず終わらせようとしたルークだったが、力なくもそのままの体勢から聞こえてきた声に先を促す。
「・・・貴方はその、アッシュ達を切り捨てることに痛みを覚えなかったのですか?いかに未来での出来事があったとは言え貴方にもアッシュ達に対する情はあったのでしょう・・・辛くなかったんですか・・・?」
「痛み、ね・・・」
それで暗くも上げられた顔と問い掛けにルークに加えイオンまでもが遠くを見るよう視線を上に向ける。ある意味で二人の一番の核心を突いた質問であったために。
「・・・なかったっつったら嘘になるな。むしろあったからこそ今ここにいるんだけどな、俺とイオンは・・・」
「じゃあ何故アッシュ達を見捨てるばかりか、自ら手にかけるようなことを・・・」
「お前の言うように痛かったからなのと同時に、痛みを感じなくなったからだよ・・・音譜帯であいつらの事をずっと見てた時、見てて辛いと思ったこともなんとか言葉を伝えられないかって思ったことは何度もあった。そんな無理矢理に事を進めるなって事もな。けどそんなことが続いたある時、俺達はそれを感じなくなった・・・なんでかわかるか?」
「・・・いえ・・・」



「それはあいつらに対して希望が持てなくなる程の現実を見せられたからだ」



「!?」
・・・それで視線を合わせまっすぐな目で話をしたルークの出した結論にディストは驚愕して目を見開いた。現実を見たからとの言葉に。
「なぁディスト。ジェイドにいつまでも夢見てるお前が何度もこういうこと聞くの嫌だろうけどさ・・・ジェイドを含めたあいつらって周りの諫言とか一切聞こうとしなかったんだぜ?それも後に失敗って明らかにわかるような事をやって叱咤に批難を受けても『次は・・・』って異口同音に口を揃えて言った一方で、自分の理解を得られないことの方に不満を漏らすって形でだ。そんな光景ずっと見ることを想像してみろよ・・・今まで積み重ねてきた親愛の念や情なんて全部吹っ飛んじまうぞ。自分はこんな奴らを信じてたのかって思ってな」
「!!」
更に自分達が何を見てきたのか・・・その事を自嘲染みた笑みと共に語って向けるルークに、ディストは頭に強い衝撃を受けたようたたらを踏む。
「・・・それが俺達があいつらを切り捨てた理由だ。現にそうするって決めた時、もう俺達の心に痛みはなかった。あんなに変わってくれることを思って痛んでた胸が、変わらないことを理屈抜きに感じ取って痛くならなくなった事でな」
「・・・それほどの事、だったのですか・・・貴殿方にとって、その時間は・・・そしてそれは、その時の私にも通じると・・・」
「その時のディストはもうジェイド達の事を迂闊に口を開くことも避けてたぞ。その時のディストの居場所は大抵ピオニー陛下の所でそれも言ってみりゃ体調を鑑みての専門医状態だから、精神的に配慮する意味でジェイド達の話題はやめるって形でな・・・これは俺の推測だけど多分板挟みになって苦しんでたはずだぜ。ピオニー陛下の苦心にジェイドの暴挙、その二つに挟まれたお前もな」
「・・・っ!」
その笑みのまま痛みが消えたことを寂しそうに話すルークは更に未来でのディストにピオニーの苦心の実態を告げ、ディストは心苦しい有り様にまたたたらを踏み息を詰まらせる。
「・・・ディストはさ、昔のままのジェイド達と昔のようにやりたかったからネビリム先生にすがりたかったんだよな。でもそれって言ってみたら自分達がずっとただ子供でいたいってわがまま言ってるだけの、ただの子供の癇癪以下の行動だよ。現実から目を背けた大人のな・・・六神将だったことで少なからず活動してきて色々経験してきたのもあるからだろうけど、そんなお前だから辛かったと思うぞ。対照的な二人の在り方は」
「・・・だから私に、ジェイドやピオニーの事を諸々含め考えろと・・・?」
「まぁな。確かにそう言った事を考えると苦しいと思う・・・けどだ、もう事態は変わってるんだディスト。ジェイドが自分のやったことのツケで今、処分を待つ状態になってしまったことでな」
「っ!」
すかさず押し込むようルークは告げていく、自身の体験と共にいかに状況がディストの決断を求めているのかを。









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