必然は偶然、偶然は必然 第二十一話

「・・・落ち着いてくれ、フローリアン。俺の名前はルークだ、わかるな?」
「う、うん・・・でもここは、どこなの・・・僕はた、確か・・・か、火山の、中に・・・!」
「っ・・・もういい、それ以上思い出さなくても・・・!」
「あっ・・・!」
そんな姿に出来る限りに優しく名前を告げるルークにフローリアンも少しは落ち着いた様子を浮かべたが、火口の中に落とされたことを思い出し青くなった顔とガタガタとその身を震わせ自身の身を抱くその姿に、ルークは悲痛な表情でたまらず自身の胸の内へと抱き寄せた。
「・・・もういいんだ、フローリアン・・・辛かった時の事なんか思い出さなくてもいい・・・お前はもう、あんな目に合う必要なんてないんだ・・・」
「・・・い、いいの・・・僕、もうあんな事にならなくて・・・?」
「あぁ、大丈夫だ・・・これからは俺達がいてやれるからさ・・・だからお前はもう苦しまなくていいんだ、フローリアン・・・」
「!・・・う、うん・・・あり、がとう・・・ルーク・・・!」
戸惑いと恐怖に声と身を震わせるフローリアン・・・だがルークが心からの慈しみを込められた声と包み込むような優しい抱擁を息苦しくない程度に強められた事で、ようやく信頼が出来る人物と思い安心が出来たようで涙を浮かべながらその胸に顔を埋めた。



「・・・よかったなルーク、フローリアン・・・」
「あぁ、これで一先ず問題は解決と言った所か」
『・・・いや、少しばかり問題がないわけでもないのだ』
「ローレライ・・・」
その光景を端から見ていたセネルとディムロスは小さな声でそっと会話を交わすが、そこにそっと寄ってきたローレライが不安を醸し出す言葉を漏らす。
「その問題とは?」
『いや、以前は導師の事から皆もフローリアンやシンクが被験者のレプリカであることも理解してくれこそしたが、今はヴァン達の事もないためそのままダアトに戻れば・・・』
「成程、導師とフローリアンの瓜二つな容姿についての追求が来る・・・か」
『その通りだ』
その問題とはフローリアンの姿について。そう聞かされクラトスを始め、周りの面々も納得の表情を浮かべる。
『ただこの問題についてはフローリアンを納得させ染料などで髪の毛の色を変えればそうそうは導師との関係性はバレんだろう。いくら顔が同じとは言えすぐには二人を結び付けるのは無理があるからな。ここを出たら一度ケセドニアにでも寄って染髪剤を買って対処すればいいだろう』
「ん~、そんな簡単な問題でもないんじゃないの?フローリアンの事って」
『何・・・それはどういうことだ、ハロルド?』
ただそれは小さな問題と解決法を述べるローレライだったが、ハロルドが疑問の声を上げた事に何故と問いかける。
「確か以前のフローリアンはダアトで大切に扱われてたんでしょ?最後の導師のレプリカだったこともあって、導師の血脈を守るって意味も含めて」
『あぁ・・・だがダアトが崩れだしてからはフローリアンが自我を持って自立したのとアニスの言葉もあって、象徴的な扱いはなくなっていった・・・自分の意志で立ち上がり、活動していったことで本当の意味でリーダーになったことでな・・・』
それで以前の事を問われ、ローレライは正直に答える。しかしその言葉には、確かな苦々しさがこもっていた。



・・・かつての過去でフローリアンは歳を重ねたことやアニスの自身の拒絶にも等しい言葉、それと崩れ行くダアトを目の当たりにして決心した。自身が崩れ行くダアトをどうにかしようと。

それでフローリアンは幼いながらも純粋な気持ちでティアやアニスの暴走を止めようとダアトの人間を取りまとめてなんとか自分達の意見を伝えようとしたが、その姿勢が皮肉にもダアトの乱れを加速させる一因となってしまった。

・・・ダアトのかつてないほどの乱れ、それを産み出してるのは堕ちた英雄達。しかしそこに自分達の事を考えてくれる優しくもかつての主導者を思わせる容貌の者が唐突に名乗りを上げる、それがどう言った結果を生むか?・・・答えは単純明快、対立だ。

フローリアンからすればどうにかアニス達を止める為としか考えていなかった事だった。しかし周りの者は皆フローリアンを担ぎ上げ、アニス達に権力を放棄しなければ容赦しないと徹底した対立の姿勢を見せ出した。フローリアンの本当の意志を全く鑑みない、暴走という形でだ。

・・・フローリアンの意志を離れ暴走を始めた者達。だがそれでもフローリアンはその集団をただ諌めるだけというような事は出来なかった。彼らの考えが誰よりもわかるが故に。だからこそフローリアンはその集団をまとめ何度でもアニス達に立ち向かっていった。自身が起こしてしまったことの責任を取る為、ダアトのこれ以上の迷走を本気で止めたいと思ったが為に・・・









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