必然は偶然、偶然は必然 第二十話

「殿下・・・お話を聞く限りでは貴女の行動はあまり誉められた物ではない、端から聞いた私も正直な所そう思いました」
「っ・・・導師・・・」
「・・・陛下、ダアトの者である私がこのような事を言うべきではないとは思います。ですがあえて言わせてください・・・殿下の処分の形を少し変えることを」
「・・・処分の形を、変える?」
イオンがそのままにルークを擁護するように発言すればナタリアは力なく声を漏らすだけで、更にインゴベルトにあえて言わせてほしいと視線を向けると怪訝そうに眉をしかめる。



「はい・・・あくまでルークは暫定として婚約の解除と言いましたが、もし条件が達成出来た場合無条件に婚約を結び直すのではなくルーク自身に最終的な決定権を与えるべきかと」



「「!?」」
・・・イオンから放たれた爆弾、それでいてルークが最終的に持っていきたいと望んでいた発案は確実にインゴベルトとナタリアの心に動揺をもたらした。
「陛下も今の殿下にルークの言葉をお聞きだったでしょう」
「う、うむ・・・」
口を挟む暇も与えず問い掛けを向けるイオンに、インゴベルトもたまらず頷かざるを得ない。
「今の二人の関係は言ってしまえばとても歪な物・・・もし今のまま歳月が経ち二人が再び婚約をしたとして、結婚にこぎ着けてもうまく行くとは限りません。いえ、今の様子ではその可能性の方が高いでしょう・・・ですから申し上げているのです。最後にどのようにするかを選択出来る機会を設けるべきと」
「・・・つまり、その・・・ナタリアがルークの気に召さなかったら、ナタリアの活動が駄目だった場合と同じく婚約を破棄するようにした方がいいと言っておるのか・・・?」
「そう言うことになります」
「・・・っ!」
そこに更に今のままの関係の不利を問えばインゴベルトもその意図に恐る恐るといった様子で気付き、肯定の言葉を返せばナタリアは何度めか数えるのも馬鹿らしい形で顔の色を白くしてカタカタと歯を鳴らし体を小刻みに揺らしていた。



・・・ルークにイオンが望むナタリア排除のシナリオ、それは二段構えで成立するものだった。しかし何故二段構えにする必要があるのかと言えば、それはひとえにルークかイオンのどちらかでも悪印象を持たれるような事態になればナタリアの排除など簡単にはいかなくなるばかりか、インゴベルトとファブレ公爵が事態を丸く納める為に偽者でもいいとナタリアを受け入れたと言ったみたいな美談にしろというシナリオとナタリアをルークに押し付けかねなかったからだ。だからこそルーク達は考えた、どのようにするべきか。

そしてどうするか決めた上で行動に移した・・・ルークの役目は結論に繋げるための繋ぎ及び段階としては優しめの発案で、イオンはその流れを引き受けた上でその優しめの発案では物足りないと示し厳しい事を言って追い詰めるという形にして。

これは二人の印象を悪くしないと言う狙いにもピタリと当てはまった。今の流れから分かるようルークは公的な判断をすると同時に情を持った考えを明かしたと言えるし、イオンも本来なら他国に対して越権的な発言をしたものと思われるだろう事をあくまでイオンはルークに同情した上でこうしたらどうかと、場の空気に合わせた発言をしただけと言い張れるレベルの事を言っただけだ。ここでその言葉に対して揚げ足を取るような事を言えば反対にその者が空気を読めないのではないかというよう、そうなる可能性が非常に高い言い方でだ。これは場に入ったイオンが絶妙に上手かったのもあるが、それでもこれで二人に対する謂れのない言葉は出てこないだろう。

・・・だがそもそもそんな状況に出来たのは、ルークが確かな理論で追い詰めればナタリアは記憶や約束にすがるしかないと予測出来たからだ。記憶や約束にこだわった結果アッシュの本質ややってきたこと全てから目を背け、ただ盲目的にアッシュならと一心に信じた一種の預言信者にも似た狂信ならそれを持ち出してくると。



・・・だがそんな狂信はもう潰える、潰えさせられる。ナタリアを王女からだけでなく、貴族としてもルーク達がケリをつけるために。










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