必然は偶然、偶然は必然 第十八話

「・・・フリングス少将。それはもう、覆らないんですか?」
「えぇ。貴族の屋敷でそのような狼藉を働いた者を雇うわけにもいきません。とは言え貴方はマルクトの関係者ではありませんので、その勧告に留まっています。事が済みましたら解放して差し上げますので、後はご自由にどうぞ。あくまで貴方を拘留していたのはルーク様よりの願いであって、貴方をマルクトが留めておく理由はありません」
そんなガイがゆっくりその決定について確認を取れば、フリングスは丁寧な口調ながらもマルクトとお前は関係無いからと強調した上で解放はすると言う。
「・・・だったら俺がマルクトの関係者なら、話は違うよな?」
「・・・それはどういうことでしょうか?」
しかし返されたガイからの意味深な声に、フリングスは何事かと問い掛ける。



「・・・簡単な事だ。俺はかつてホドをまとめていた一族、ガルディオスの生き残りだ」



「!?」
「ガイが、ガルディオスの生き残り・・・だとっ!?」
・・・そしてガイから出てきたのは切り札とも言わんばかりの様子からの、ガルディオスの遺児の宣言だった。そのまさかの宣言にフリングスの表情が一気に驚きに揺れ、アッシュがまさかと声を荒くしてガイを凝視する。
(はい、ドカーン!ってか?フフッ・・・)
・・・だがこうなることを既に予見していたルークは一人心中で楽し気に声を上げていた、自爆の瞬間を目撃した事に対して。
「・・・・・・ガイ=セシル、貴方はそれを本気で言っているのですか?」
「あぁ、言いたくはなかったがやむを得ないと思って言った・・・だから俺の処置について少し「痴れ者が!何を持って今更ガルディオスの名など騙る!?」・・・え?」
そんなルークを尻目に気を取り戻したフリングスがその真意を問うとガイはいかにもガルディオスという貴族然とした態度で話をしようとするが、唐突に割り込んで放たれたフリングスの滅多にない激昂の声に呆気に取られて停止した。
「・・・貴方がガルディオスの生き残りかどうか、それはまだ置いておこう・・・だがここでそれを明かすこと、それは自身の犯した罪状から逃れるための苦し紛れの言い訳でしかない事は明瞭だ!そんな貴方がガルディオスの生き残りだと?・・・そうであってもそうでなかろうとも、その名を使われることになったガルディオスが不憫にしかならない!貴方がそう宣言したことで責任を逃れるための誤魔化しに使われたのだからな!」
「っ!?責任逃れの、誤魔化し・・・っ!?」
そして指を指された上で怒濤の勢いで次々放たれるフリングスの口撃に、そのあまりの正当性にガイは言葉を返せずに呆然とした。
(おーこえー・・・フリングス少将怒らせっとこうなるんだな・・・ま、やったことがやったことだからガイに同情することなんざ一切ないんだけどな)
そんな光景に仕掛人とも言うべきルークはフリングスの姿に確かに驚きつつも、ガイに対しては何の感慨も浮かばない様子でただ愉快だという気持ちを浮かべる。



・・・ルークがこういった事態になることを予期していたのには、ファブレから近寄る余地もない形で追い出されるに至ったガイの思考を正確に推察したことがある。

ガイからすれば復讐と同時にガルディオスの復興は為さねばならない二大目標であり、その復讐が現実的に相当に難しくなったとなれば流石にガルディオスの復興の事が頭によぎるだろうとルークは考えた。そしてマルクト側から自身が接触をする前に関係を拒絶されたならガイはいかにするか・・・と考えた瞬間ルークは見えたのだ。今のように盛大にバラすタイミングを間違えて自爆をするガイの姿が。

・・・尚補足として今自爆を避けたとしても、どちらにしてもガイにとってのチャンスはなかったことをルークは確信していた。何せファブレという家はキムラスカにとって大貴族であり、公爵に至ってはベルケンドを所有地としていることもありキムラスカ内を動き回る事も多々あるのだ。そんな中でガイが復讐を諦めずキムラスカ内に残ったとてファブレ関係者に見つかっただけでアウトになる上、ファブレをクビになったような人物を好き好んで使うような物好きなどキムラスカにそうそういるわけがない・・・つまりガイはキムラスカに居場所などほとんどなくなる上、針の穴に糸を通すようファブレ関係者に絶対に会うことのないような慎重な生活を強要されるのだ。

そんな中で復讐などまず成功する可能性が低い上に、ガイ自身がその生活に耐えれなくなる・・・ルークは推察していた。そしてどう転んだとて、ガイに未来など残ってないとも。







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