必然は偶然、偶然は必然 第十八話

・・・イオンは考えていた。いかにすればジェイドに精神的にダメージを与えられてかつ、その地位を失わせられるかを。それで考えてみれば答えはすぐ近くにあった。それはピオニーの存在である。

そもそもからしてジェイドの皮肉に嫌味に満ちた発言は敵を作りやすい物である、いかに軍人として高い能力があったとてだ。だが皇帝の懐刀として敵が多いはずのジェイドはその立場にいる、他ならぬピオニー自身がそう位置づけるように重用したために。

・・・ならばそのピオニーの庇護を外せばどうなるか?それもピオニー自身にその事を理解してもらった上で、ピオニー自ら庇護を無くす形で・・・そうなれば自分自身の力のみでマルクト内の地位の向上に加えて敵を黙らせてきたと思っているであろうジェイドも流石に気付く、自身の行動の果てにピオニーですらもが見放したのだと・・・そう、イオンは考えた。



(・・・昔から性格は変わらなかったと聞きましたが、子供ならともかく今の年齢で自分の事を影で庇護されていると思っていないのはどうかと思いますね。いえ、正確には昔から変わらないからこそピオニー陛下の厚意にただ甘える形以外を取れなかったのでしょうね。自分の態度が周りにどう思われているかなど実害がなければいいといった考えを持つことで考えなくなるばかりか、ピオニー陛下の威光をカサにきていた・・・なまじ力があったので自覚はしていないのでしょうが、ジェイドは虎の威を借る狐のような行動を取っていた。本人にそう言っても素直には認めないでしょうけどね)
・・・ロクに反応が出来ないジェイドの姿を見ながら、イオンは冷静な面持ちを浮かべながら心中で評する。虎の威を借る狐と。
(ですがそれらの行動を重ねてきたのを白日の元に晒し、ちゃんとした形でマルクト内でその罪状を裁いたらどうなるか・・・ピオニー陛下にとっては酷だったでしょうが、だからこそ堪えるはずです。虎の威が完璧に引き剥がされた上で、利用されたピオニー陛下に無自覚な甘えのあった心の内を計らずも抉られたのですから・・・陛下に私情を抜いてもらうよう、厳しい言葉を添えた手紙を送ってもらって正解でしたね)
しかしそれがなくなればただの狐と、今この状況を産み出した元を作ったイオンはそっとほくそ笑む。



・・・ルークにイオンはかつての過去の経験から分かっていた、なんだかんだ言っても身内切りをするような事を嫌うピオニーだからこそジェイドを切る事が出来なかったのだと。勿論状況がそれを許さなかったというのもあるのだが、最終的にそれが出来なかったことにピオニーの甘さはある。そしてジェイドもそんな甘さに甘えて、平気で皮肉に嫌味に満ちた発言を出来たのだと。

だがそのジェイドに対する批判がちゃんとした形として上げられた上で、かばいだてしようのない状態になっていたならどうなるか?・・・イオンの狙いはそこにあった。

・・・少し前にセントビナーよりタルタロスでルーク達と分かれて行動する前、マクガヴァン親子にジェイドを通さずイオンから直接救助の為のアプローチを願ったことから、ジェイドがイオン達から信頼をされていない事は重々に親子に印象がついた。そこでイオンはタルタロスで出発する前に更にジェイドの印象を地に叩き落とす為にマクガヴァン親子に手紙を渡した、『勝手な判断でジェイドを信じれずに貴殿方に協力を申し出た事を詫びた手紙です、陛下にお届けしていただけませんか?』と。

これは一見非礼を詫びた行動に取れるだろう・・・だがその実は違う、信じるに足るような人物と言えないジェイドを送った事への批難を遠回しに告げたような行動だ。それも勝手な判断をしてまでと告げることで、その事を強調する形で・・・ただイオンの人柄からそういった穿った見方はされないだろうが、言われたマルクトにマクガヴァン親子からすればこれはとんでもないことだ。流石にジェイドと親交のあった老マクガヴァンと言えども、この事をただ見過ごせばマルクトの恥を晒すことになる。ましてや息子のグレン将軍は堅物で真面目な将校だ。

ジェイドの断固たる処分を進言する上で老マクガヴァンの迷いを断ち切らんと激しい言葉をぶつけたろう・・・その結果マクガヴァン親子の報告にイオンの手紙はグランコクマに届き重臣以下の間で協議した結果、ジェイドに甘いはずのピオニーですら庇いきれずその処置が決定してしまった・・・という訳である。



(陛下も断腸の想いだったのでしょうね・・・ですが陛下の判断がジェイドがこうなった理由の一因でもあります。それは受け止めてください、貴方がしたことでもあるのですから)
・・・イオンの中にはピオニーに対する同情はない、何故ならかつての過去でジェイドを結局排する事を選ばなかったから。イオンはピオニーへただその事を噛み締めるようにと、そう念を送った。







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