必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「・・・イクティノス、もうルーク君との話は終わったか?」
『っ・・・あぁ、終わっている。お前達が重大な話をしているから黙って聞いていたがな』
そんな時に唐突にウッドロウからかけられた声に何とか平静を保ちつつ、イクティノスは話は聞いていたと正直に答える。
「お前は昔の私と比べて今の私をどう思う?・・・遠慮せず、素直に答えてくれ」
『・・・素直に、か』
それで自らに近付き自身を手に取りながら問い掛けの言葉を向けるウッドロウに、イクティノスは少し考える。本当に正直に答えていいものかと・・・だがそうは思うものの、生死を共にして戦う相棒を無意味に騙す選択肢はイクティノスにはなかった。
『・・・素直な気持ちで言うなら、今のお前は少し成長出来たと思っている』
「成長?ははは、中身は年寄りの私が成長とはな」
『正確には恋愛面に関してだ。神の眼を壊したその後以降の話を聞く限り、お前はろくに女性とまともに向き合ってすらいなかっただろう・・・それこそマリーの事を忘れられずにいたことでな』
「・・・参ったな」
正直な気持ちで質問に成長したと答えるイクティノスだが、その言葉に軽く笑うウッドロウ。しかしマリーの名を出された事でその笑みは苦笑に変わった。
『以前のお前ならそれが政略的な目論見か純粋な色恋沙汰かは関係無く、やんわりとそういった事を断っていたはずだ。それこそ言い方は悪いが見境なくな・・・素直に答えろ』
「・・・素直に言うなら、そうだな」
更に過去に恋愛でやったことの予測をするイクティノスは素直に言えと同じ言葉で返し、ウッドロウは力ない笑みを浮かべながら頷く。
「今思えば・・・いやその事柄から目を反らしていると気付いてもそれをずっと誤魔化したまま、随分馬鹿な事をしていたと思ったよ。全て自分のわがままで目を背けていたんだから」
『・・・そう思うならリグレットの事は真剣に考えてやれ、クラトスの言う通りにな。そしてお前自身もマリーの事を今も尚輝く美しい憧れとしてでなく、過去の思い出とするんだ・・・もうここらでいいだろう、お前が前に進む為にもリグレットの為にも・・・マリーにこだわるのはな』
「・・・そうだな、もうこだわるのはやめよう。そして真剣に考えるよ、リグレットの事をな」
『(・・・結果として、これでいいのだろうな)』
その上で自嘲気味の独白をするウッドロウにイクティノスが最後の押し込みをしてマリーにこだわることをやめるように言えば、ようやく意外と頑固であり攻めどころがほとんどなかったその意識が陥落して清々しそうな表情で了承の声を上げた。その様子にこれでいいのかと思っていたイクティノスはこれでいいのだと思い直すに至った。



・・・イクティノスの心中に去来していたのは、満足感であった。かつてのウッドロウに不満があったわけではないが、ただ神の眼を壊した後の態度がいただけないと思っていたのだ。マリーの事を未だに想っての行動と、常に一緒にいたからこそわかるから余計に。

だがこの旅でウッドロウはそんな行動を悔い改めると言った。それも一人の人間として確かな成長を伺えるような形で・・・それは結構な時間一緒にいただけに、理屈抜きで喜びを覚えていた。



『(今のウッドロウならリグレットが駄目でも、きっかけさえあれば男性として女性を愛せるようになるだろう。無論リグレットが相手になってくれるならそれがいいんだがな)』
だからこそイクティノスはこれなら大丈夫と感じていた、今のウッドロウなら男性として一歩前に進めると・・・だが自身らで焚き付けた事もあり、その相手がリグレットであることも同様に望んでもいた。










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