必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「・・・さて、自らの起こした行動を全て理解していただいたようですね。ではモース、貴方には然るべき手続きをした上でちゃんと裁かれるまで部屋にこもっていただきます。では誰か、兵士を呼んでモースを連れていってもらっていいですか?」
「はい、では私が」
「・・・」
・・・これでイオンとモースの戦いの勝敗はイオンの勝利で決した。そう判断できる状況になったことでイオンがその身柄をさっさと連行するように詠師陣に命じれば、詠師の一人が返答と共に動き出しモースは何も言えずただ呆然とするばかり。






・・・それで詠師の一人が呼び出した兵士と共に力ないモースを連れ出したのを見て、イオンは詠師陣に振り返る。
「・・・今まで騙していてすみません、本当なら貴殿方にも僕の事実は言うべきかと思っていたのですが・・・」
「いえ、それは貴方のせいではありません。そうすると決めたのはモースにヴァンですので、貴方が気に病む事はありません」
「ですが僕が偽者という事に変わりはありません。本来なら僕も導師の地位を辞退して然るべきかと思っているんですが・・・」
「いえ・・・正直な所で言えばそれは止めていただきたいと、私は思っています」
神妙な表情になりレプリカの事実を隠していたことを謝るイオンにトリトハイムが首を横に振れば、自身の立場から導師を辞めるべきと更に言うと再度トリトハイムは首を横に振る。
「おそらく大詠師の件だけでもダアトは混迷の状態に落ちるでしょう。そのような状態で更に導師までも、となればどのような事態に陥るか私には想像出来ません・・・あ、いえ。そのような混乱を避けるためだけにこのようなことを言っているのではありませんぞ。貴方が偽者かどうかなどということは関係無く導師として相応しいと思ったのもあって、今まで通り導師でいてほしいと私は思っております」
「あ・・・私もです」
「私も・・・」
それでそう思った訳を説明するトリトハイムだが慌てて後半取って付けたように補足を入れる姿に前半の部分が理由として大きいと印象がつくが、そんなことに関係無く他の詠師陣も同意する。



・・・ここでイオンがモースとドロドロのやりあいをした上でなんとか勝利をもぎ取ったような形だったら、詠師陣はイオンをそのまま導師に祭り上げることに多少不安を持っていたであろう。だが完膚なきまでにモースを叩き潰した上で導師としての度量を見せたことが、功を奏した。

おそらく詠師陣の態度からしてイオンを導師として祭り上げる気は元々からあっただろうが、それもモースの時にどうなっていたかで実権を握れていたかどうかが決まっていただろう。

だが今の気を使う詠師陣の様子から、イオンは勝ち取っていた。導師としてそのままトップとしての権限を持ったまま、詠師陣と相対する権限を。



「・・・ありがとうございます、皆さん。そう言っていただける事、すごく嬉しく思います。不肖の身ですが今まで以上に導師として活動したいと思いますので、これからもよろしくお願いします」
「はい、導師」
・・・そしてなんであれ導師として認められたからこそ、その立場を明らかにする必要がある。
詠師陣の返答を受け真摯な表情で所信の表明をして頭を下げるイオンに、トリトハイムもその所信を受け取る・・・今新たに、イオンが導師として認められた瞬間であった。











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