必然は偶然、偶然は必然 第十七話

・・・モースは詰んだも同然の状態に陥った、それも半ば自らその事態を引き込む形で。









レプリカの事実、それは確かにうまく利用出来ていれば事態は大きく変わっていただろう。だがモースはそう出来なかった、詠師陣の心を積極的に引き入れようとしてなかったがために。



・・・そもそもモースにユリアシティが詠師陣を自身の側に引き込もうとしなかったのは、詠師陣を軽々しく考えていたからだ。

詠師陣はあくまで数あわせであり、預言の実行にはそこまで大したことはない・・・言葉こそそんなことはないと言っても、モース達の本音はそんなとこだろう。



だが詠師陣とてローレライ教団で詠師として属している人間だ、プライドに加えて今までの表での実績もある・・・そんな中で自身らを全く鑑みてないことを知らされれば、当然心中は荒れたものになるだろう。

そしてそんな心中など察することなくモースはただ自身の保身のためにイオンの事を明かした、詠師陣にとって最大限の衝撃をもたらす事実を。



・・・もしモースにユリアシティが円滑に事を進める為に詠師陣にも協力の為にイオンの事を説明していたなら、話は大きく変わっていただろう。いや、正確には協力するとの声をもらった上で共にダアトに今もいれたやもしれない。なんだかんだ言っても導師の早すぎる死の事実はダアトにとっては大打撃になりかねないのだから、そこで混乱を避ける為にとイオンの秘密を共有していれば間違いなく今と違った展開になっていたはずだ。
しかしモースはその選択肢を選ばなかった、事実を知らせる事もなくただ沈黙する形で。



・・・そんな様々な事柄を隠蔽し続けてきたモースに対して、イオンは違う。確かにレプリカという事実は詠師陣にとって信じたくない出来事ではあろう・・・だがイオンはそれすらもを含めて公明正大に、事実を明かしてのけたのだ。相談でもすれば耳を貸すくらいは容易に出来た事柄すら何もしなかったモースと比べればまさしく雲泥の差と言えよう。ましてやイオンから明かされた事実が不正の山となれば、モースに無条件でなびくなどあり得るはずもない。

・・・つまりはモースの今の状態は正に悪因悪果でしかないのだ。例えイオンがそうなると見越して意図的に導いていたにしても、詠師陣を信じず裏で好き勝手やってきたにしても。



・・・だが悪い因果も良い因果もいつかは必ず断ち切られる定めにある、結果がどうであろうとも。今目の前にある悪因悪果も同様にだ。








「・・・詠師の皆さん。全員モースを信じるのではなく、僕を信じる・・・それでいいんですか?」
「はい、それが我々の意志です」
「・・・っ!」
・・・詠師陣六人全員モースを信じないと言い切った。その答えを再度確認する慎重なイオンにトリトハイムは迷いなく肯定で返し、モースは体をガタガタと震え出させた。
「ありがとうございます・・・という訳です、モース。貴方に味方をするものはいません、裁きを受けるために覚悟を決めてください・・・預言の名の下、大詠師としてあるましぎ行動を全て購う覚悟を」
「!・・・あっ・・・うっ・・・・・・」
・・・だがその体の震えは一瞬で止まった。味方はいないし許すつもりもない、そう告げた上で何よりも強く有無を言わさないイオンの鋭くも力を込めた瞳と声で。



その導師としての姿をまざまざと見せつけられたモースは何かにビクッとした後、糸の切れた人形のように朧気な声を上げた後頭を下げ呆然と何も言わなくなった。








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