必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「さて・・・詠師の皆さん。この事態をどのようにお考えですか?」
「ど、どのようにとは・・・?」
そんな混乱の渦中にある詠師達に真剣な顔を向け問いを投げ掛けるイオン。だがその問いにどうとも言えない様子で詠師の一人は何をと返すしかない。
「確かに僕はモースの言ったよう、被験者のイオンではありません。ですがそもそも被験者の代わりを造ると決めたのはモースであり、ヴァン以外の何者でもありません。そしてその被験者の死の事実を隠蔽したのもまた、二人です・・・さて、ここでお聞きしますが僕の事実を貴殿方にすらお伝えしなかったモースです。今僕の事実を明かしたのもその狙いは明白で、貴殿方から僕の信頼を奪い取りこの場を切り抜けようとするものと容易に想像が出来ます・・・そんなモースの事ですから、この場をうまく切り抜けたなら最初は貴殿方に形こそ感謝はするでしょうが、いずれは口を塞ぎにかかるでしょう。それこそ今までに貴殿方が耳にしたような、いかなる手段を用いてでもです」
「「「「!?」」」」
そこに事実を認めつつもいかにモースが悪辣な手段を使うかを想像させる話を投下したイオンに、詠師陣の表情が一斉に驚き凍り付いた。
「わ、私はそのようなことはせん!ただ私は導師が偽者と・・・!」
「そのようなことはしない?よく言えますね、都合の悪いことから目を反らし自分の都合のいいような展開にするために今その事実を明かしたくせに。それとも今その事を明かした理由が僕が偽者だから、という以外に正当な理由があるんですか?答えてください、モース」
「そ、それは・・・」
「「「「・・・」」」」
雰囲気の悪さを感じたのかすかさずモースはイオンの言ったことを否定しようとするが、当のイオンから真っ向から正論で切って返された事に口ごもるしか出来ない。そんなモースの姿を見て次第に詠師陣の目が動揺に揺れた物から酷く冷めた物へと変わっていく。
「・・・詠師の皆さん、確かに僕は被験者のイオンではありません。ですがダアトの為を想い導師として生きることに、僕は一片の迷いもありません。それはその役割を任じられたためというのもありますが、僕自身が決めたことでもあります・・・ですがそれでも尚モースの方が僕よりいい、というのであれば僕にそれを無理矢理変えさせる事は出来ません。モースを信じ僕を排除するべきと思っているのなら包み隠さず申し上げてください、僕はその意見を受け止めます」
その詠師陣に向き直り真摯な表情で自分の事を信じられないなら言えばいいと告げるイオン。だが詠師陣はそのイオンに不快そうな表情を浮かべず、真摯な表情で返した。
「・・・見くびらないでいただきたい、導師。確かに貴方は被験者の導師ではないかもしれない。ですが今大詠師を糾弾する貴方の姿に話はまさしく導師と呼ぶに相応しいものでした。そして同時にこの大詠師の自身の地位に固執する姿は大詠師と見るには、相応しいものとは到底思えませんでした」
「・・・っ!」
そして代表としてトリトハイムがそんなことしないと言いつつもモースの事を同時に批難すれば、モースの薄く細まったいやらしい目が最大限に見開かれる。
「どちらに非があるかは一目瞭然・・・私は貴方がレプリカかどうかなど関係無く、貴方を信じたいと思います」
「私もです」
「私も」
「・・・っ!」
その上でイオンを信じると宣言するトリトハイムに周りの詠師陣も一斉に賛同し、モースの顔色がみるみる白くなっていく。









10/21ページ
スキ