必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「・・・ありがとうございます、協力していただいて・・・」
「・・・っ!」
そんな乳母に礼を言って真摯に頭を下げるイオンだったが、そんなどんどん出来ていく自身の危険に繋がる流れにモースの脂汗はどんどん顔中から溢れだしてきていた。









・・・これで後は事実さえ言えば、モースにナタリアを排除することなど完遂したも同然。

モースの事はこれより更なる事実を明かせばすぐに潰せるだろう。今のイオンからすれば容易い事である。ナタリアに関して言えばイオンはそれ以上何もせずとも、勝手に消えてくれるであろう。何故勝手に消えるか、と言えばナタリアの事を排除するのはキムラスカの民達であり臣下達だからだ。



・・・ここでイオンがさりげに事実に目を向けないよう誘導したのも大きいが、インゴベルトの失策とも言えるミスがあった。それはイオンがナタリアの事実を明かすと宣言したことを許可した事だ。

なんだかんだ暗愚な上に実の娘ではなかったとは言え、ナタリアを娘として再び迎え入れたインゴベルトである。ナタリアの件をイオンが内密に処理、もしくは同情を引くような処理をしたならナタリアも多少の反発はあっても無事に王女殿下のままでいられるだろう。

だがイオンはそんなつもりはなく、むしろ事実を事実のまま明かすつもりでいる。そんなことになればナタリアに対しての物の見方は間違いなく変わるのは避けられないだろう。



・・・これは、ナタリア自身が民であったり貴族の信頼を自身で失わせていったのが致命的だった。これまでルーク達が積極的なナタリア信頼低下運動をしてきたこともあり少なからず民の前でナタリアは信頼を失っていた。それはダアトに戻る前にウッドロウにクラトスにセネルのこの世界で顔が割れてない三人がバチカルで密かに民の噂話を聞き出した事で確認出来た。その上貴族の信頼はバチカルから抜け出しルーク達から叩きのめされた後にノコノコ出戻った事に加え、インゴベルトから謹慎をさせられたことで相当に低下したことは予想出来る。

そんな状況で事実が明らかになったなら・・・以前バチカルから逃げ出すよう出ていった時と違い、民がナタリアを惜しむような声は出にくくなるだろう。むしろ納得すらするものさえ出てくる可能性が高い。



・・・そしてそんな状況になればいかにインゴベルトが働きかけた所で、ナタリアの信用の失墜はまず避けられない。いかに娘が可愛いとは言え、王の力を駆使してもまず無理だ。むしろインゴベルトが権力を振りかざせばかざすほど、父娘共々信用を無くすだろう。情一つで判断を誤る父娘と。

そうなればもう事態は止めることなど出来ず、インゴベルトはナタリアの事を諦めイオンの作る流れに従わざるを得なくなる・・・ナタリアの王女殿下の座の陥落という流れに。

もしインゴベルトがもう少し冷静でいて、かつ流れを見渡せる目を持っていたならイオンの思惑に気付かずともナタリアの安全の為に尽力出来ただろう。ナタリアを救いつつもキムラスカを混迷に導かないようにする、尽力を・・・とは言うものの、かつての未来でナタリア可愛さにアッシュ共々前王として排斥する指示を最期まで出せずに終わらせてしまったインゴベルトでは無理だろうとの予測もあったからこそイオンも敢えてあぁ言ったのだ。一方的にナタリアを終わらせるも同然の権利をもぎ取るような発言を・・・









(・・・ナタリアはもうちょっとしたらその地位を無くします。ですがそれより前にまずは貴方から全てを剥ぎ取って差し上げますよ。もう二度と預言に傾倒することなど出来ないようにね)
・・・モースの明らかな異常の見える表情を上げた視線で見つめる中でイオンははっきりと心中で愉快そうに告げる、終わらせてやると。
そんな事は表情にはおくびも出さず、イオンは更に話を続けようと真剣な表情で口を開く。







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