必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「・・・では行きましょう、導師」
「はい」
「・・・」
明らかにモースの力がなくなった。そう見受けられた事でトリトハイムの勧めにイオンも答え、一同はその後に付いていく。何も出てこないモースの背中をセネルが一回押して歩くように指示した後、歩かせながら・・・









・・・そしてトリトハイム達の案内で通されたのは教会の中にあった会議室で、ダアトにおいて重要な会合で使われることの多い部屋である。



その部屋に置かれた大きなテーブルの奥の方にイオンとトリトハイム達詠師陣は行き、入口側にモースを置き取り囲むようにウッドロウ達が配置された。
「・・・さぁ、始めましょうか」
「・・・っ!」
今モースにとってイオンは魔王にも等しい存在とでも感じているでは?・・・穏やかな笑顔で放たれたイオンの開始の一言に、そう思える程モースは酷くビクッと反応し怯えた目で見返す。
「まずはトリトハイム達に紹介したい人がいます。この方は以前ダアトから出た後に出てきた事実の証人になる方です・・・少しこちらに来ていただいてよろしいですか?」
「えっ、まだ何か新たな事実が・・・?」
それで話の口火を切るのは詠師陣の更なるモースの信頼を無くすためのナタリアの事実。イオンに呼ばれてウッドロウ達の元から歩き出す乳母に詠師陣から更なる事実に対する不安に満ちた声が出てくる。
「・・・こちらの方は以前キムラスカでナタリア殿下の乳母を担当されていた方です。こちらの方は当時預言によりとんでもない事実を隠蔽することになったのですが、今からその証言と共にモースがしたことを述べます・・・では今から私が言うことに対して、正直に証言してください。いいですね?」
「・・・はい、わかりました」
「・・・っ!」
それで乳母が近くに来たことで一連のキムラスカで起きたナタリア関連の事の証言をイオンが求めれば決心したように頷き、モースは明らかに話の中身からマズイと気付いたのか脂汗をかきながら顔を青くするが周りのウッドロウ達により押し黙る事しか出来ない。そんな状況で詠師陣に向けイオンは語り出す、キムラスカに対して何をしたのかを・・・















「・・・という訳で、預言を実行するために動いたこと・・・これも娘を奪われたシルヴィアという方に預言を絶望させたという点で大いに問題があります。ですが更に問題となっているのは、あろうことかその今のナタリア殿下を自らの都合だけで排除せんとしたことです!」
‘バンッ!’
「「「「・・・っ!」」」」
・・・話が終わりイオンが改めてその行動の是非を問う声を向ける中で、徐々に怒りでボルテージを上げ最後に大きな声と共にテーブルを叩いた事で詠師陣もモースも反射的にビクッとなる。その中でモースの顔色は青さを通り過ぎ、白くすらなっていた。
「貴方は何様のつもりなのですか!預言を守るためとうそぶきながら、その預言に詠まれた王女を排除せんとした!百歩譲ってナタリア殿下を入れ換えたというのをよしとしたとしても、貴方がナタリア殿下の生死を決めていいはずもない!預言に詠まれた王女殿下を勝手に大詠師である貴方が邪魔かどうかの考え一つで決めていいはずが!それとも何か!?ナタリア殿下の死も預言に詠まれていたから殿下を見殺しにすると決めたというのですか!?答えなさい、モース!」
「・・・そ、それは・・・っ・・・!」
そしてその怒声のままにイオンはつらつらと並べ立てるようにナタリアの事を聞いていくが、勢いに負けたのかただ単に返せる言い訳が見つからないのかモースはしどろもどろになって言葉を失い息を詰まらせる。



・・・ここでナタリアの死の預言の事が出てきたが、イオンは最初から預言には今年の死は詠まれていなかったのではと見ていた。

元々の可能性としてアッシュが何もない状況で『ルーク』のままでいたなら、ナタリアは何だかんだ言いつつアクゼリュスに向かう時にはバチカルにいただろうと見ている。言ってみればナタリアは記憶と経験に加え、自分に甘い『ルーク』を信頼して盲目に愛していたのだ。ヴァンなど他の要素がなければ渋々と言った様子ではあるだろうがバチカルに残されることは納得していただろうと、イオンにルークは譜石帯にいる時に推測していた。そうだったなら戦争が始まった際にはバチカルから出されることはなく、唯一の現世代で正常に子孫を作れる王族として大事にされていただろうと。

・・・だがそんなナタリアの預言をねじ曲げてでもモースは戦争を優先させた。それも偽者に仕立て上げた立場を棚に上げて。だがそんなことをさせる気は今のイオン達には一切ないが、それはまかり間違ってもナタリアの為ではない。ただモースにナタリアを共に潰す、その為にである・・・









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