必然は偶然、偶然は必然 第十七話

「ではダアトに着くまでこちらで待っていてください。着いたらお呼び致しますので」
「はい、わかりました」
「では失礼します」
そして意思確認が出来たからこそこれ以上は変に巻き込む気はイオン達にはない。ここで待つようにと頼むイオンに乳母はすんなり頷き、一同はその船室を後にしていく・・・









・・・そして乳母のいるところとは別の船室に入ったイオン達。
「うまくいったな、イオン」
「えぇセネル。あの人も長い間預言に従ってやったことに苦しんできましたからね。その後悔の念を断ち切れたというのはいいことです」
「・・・しかし改めて思うな。一般にいい物と見られる預言だが、その預言に苦しめられた者は確かにいた。それも結構な数でだ・・・そこまでして預言に付き従う事に意味があるのか、などという啓蒙思想が流行らなかったのがいっそ不思議になるな」
そこで乳母の事について成功したことに笑顔を交わしあうセネルとイオンだが、そこにクラトスがしみじみと預言を疑問視しなかったこの世界の動きについて疑念に満ちた考えを呟く。
「・・・そういった預言を異端視する者達は神託の盾が始末するよう、秘密裏に命が下っていたからな。おそらく過去そういった騒ぎを起こした者はことごとく預言の名の下、始末されてきたのだろう。確か導師の話では、漆黒の翼だったか・・・その者達もかつてのホドから生き残った後表立って預言に反発はしないものの、内には預言への不満を溜め込んでいたのだろう。下手に騒ぎ立てればすぐに始末される、そう分かっているからこそ言葉にはしないと言った形でな」
「・・・預言の名の下、か。そういった場合はその者達の主張は影も形も残されんのだろうな、預言を貶めるような発言は許されるものではないという盲目的な見方で被害者側の視点から全く物を見ることはなくな・・・」
その声に答えたのはリグレットの重い声だったが、中身が中身だっただけにクラトスも目をつぶりその言葉を重く受け止める。



・・・預言を絶対とするモースのような者達にとって、預言に詠まれない命は正に塵芥のような物だった。そしてそういった者に限り現場に出もせず、のうのうと安全で悲鳴も嘆願も嗚咽も被害者の声など聞きもせず聞こえない場所から取り巻きの者に一方的に指示だけ出すものだから遠慮など一切なかった。

おそらく歴史の影で秘密裏に預言の為にと、預言に反発心を持っていた者達の殺された総数は百や千の単位では効かないだろう。リグレットの言った漆黒の翼のように表立って反発しないものの、不満を持っていた者の数はその倍では効かないはずだ。だがそれでもその不満は表されることはなかった。表してしまえばすぐに異端視された上で殺されてしまうのだから。

・・・そしてそれらの主張に想いはけして受け入れられることなく、ただ切り捨てられてきた。教団に、ひいては預言に弓引く物としてけしてその主張が正しくとも一方的に悪者として扱われる形でだ。これほどの哀れな事があるだろうか、預言の一言があるかないかで命運が決まり運命が強制されるなど・・・



「・・・今までのダアトの歴史は確かにそうだったのでしょう。ですがこれからはその歴史を変えねばならないのです。そして変える為に僕達はここにいるんですから」
「・・・そうだな、導師」
・・・しかしそのやり方を変える為に今ここに彼らはいるのだ。



イオンの決意に満ちた瞳からの変えるとの宣告に、クラトスは目を開け微笑を浮かべる。自分も共にそうするのだと、決意を見せながら。






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