必然は偶然、偶然は必然 第十六話

「結局正義なんて曖昧なものよ。ある者達にとって揺るがない正義でも、ある者達にとっては受け入れがたい敵にしかならない。そんな思考の対立から人って争うんだし・・・ま、モースってのはその中でも特に恨みを買いやすい事してたんだから自業自得よ」
「恨み、ですか・・・」
「そ。まぁわかりやすく恨みなんて言葉使ったけど力押しで都合も考えず物事進められたらそりゃ反発起こるわよ。まして色んなルールだったり人だったりを蔑ろにしてきたらね。それが今回の捕縛って結果ね」
「そう、ですか・・・」
「「・・・」」
そんなハロルドは常日頃ならまず口にしないだろうやたら人道的な言葉を口にし、アリエッタはそれを受け止め神妙な表情になるがルークとディムロスはハロルドのそんな姿に軽く驚き目を見開いていた。
「なーによ、あんたら。そんな変な顔して」
「い、いや・・・お前がそんなことを言うとは思わなくてな・・・」
「それこそあんたが何言ってんのよディムロス。私達には身近に嫌になるくらい独裁者っていうのの見本がいたじゃない、私はそれをモースになぞらえてアリエッタに説明しただけよ」
「っ・・・そうか」
その二人の表情にツッコミを入れるハロルドにディムロスが動揺して正直に答えるが、更に返された過去を引き合いに出す答えに微妙な表情になりながらも納得する。



・・・ハロルドとディムロスにとって元の世界での戦争の相手方の王、ミクトランはまさしく地上軍にとっての暴君以外の何物でもなかった。元は同じ地上の人間であったはずなのに自身らが外殻大地を作れるようになる技術を持ち天空に飛び立ってからミクトランを始めとする後の天上軍は、次第に地上に住む人々を軽視するようになり迫害するようになった。

そこから天上軍と地上軍の戦いは始まったのだが、ミクトランは確かに地上軍にとっては暴君であり天上軍内部においてもその徹底的な地上の人間に対する排他的な姿勢に付いていけないと離れる者が出ていた。だがそれでもミクトランに心から付いていく者が多数いた辺りはカリスマもあったのだろうが、その思想に引かれたのが大きな理由だろう。

・・・選民思想というのは一見外から見れば危険思想に見える事が多い。というよりは事実ほぼ、危険思想に属する物になる。何せほとんどの物が自分達を至高の存在として自分達で据え、自分達以外を下もしくは異質な存在に据えるような思想なのだ。周りからすれば自分達をそんな思想の元理不尽を理不尽と思わず攻撃してくるのだから、脅威以外の何物でもないだろう。しかしそれでも選民思想に彩られた者達には彩られた者達なりの正義があるのだ、いかに周りから批判されようとも。

そんな対立の末にハロルド達属する地上軍が勝った訳だが、そのモースの預言にだけ重きを置く考え方はある種ミクトランにも通じる・・・そう言われてしまえばディムロスは心当たりが大いにあるため、反論が出てくるはずもなかった。



「・・・話を戻していいか、ハロルドにディムロス?」
「・・・あぁすまない」
「いいわよ別に」
そんなディムロスの空気を見てとったルークが声をかければディムロスは表情を戻し素直に頷き、言いたい事を言ったハロルドもすんなり頷く。









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