必然は偶然、偶然は必然 第十六話

「・・・確かにアリエッタ、ルークの言った通りモースの事好きじゃない、です。イオン様と一緒にいた時も、六神将になってからも、優しくしてもらったことありません・・・」
そんな問いにアリエッタは静かに目を伏せながら語り出す。
「でも、そんなモースでも、預言だけは絶対に守るって、アリエッタ思ってました。けどルーク達の話だと結局、モースも預言の事、そんな絶対に守る物って思ってなかったんだって、アリエッタ思いました」
「あぁ、結果的に言葉と行動が伴ってないと思ったんだな?それでモースの行動の意味を聞いたんだな、アリエッタは」
「はいです・・・」
「・・・まぁ言いたいことは分かるよ。実際そう見える事をしてたんだもんな、モースは。ただモースの行動で問題なのは実はそういった都合のいい物しか見ない行動じゃなくて、その心の在り方なんだよ」
「え・・・どういうこと、ですか?」
そこから出たのは嫌いなりにモースの事を見ていたアリエッタが、今となっては預言をさほど大切に思っていなかったのだと確認したかったからだという本音。そう聞いたルークは肯定はしつつも本質は心にあると言い、アリエッタに疑問の視線を向けさせる。
「言っちゃなんだけど人ってのは慣れる生き物だ。例えそれが嫌な事でも何回か物事を重ねればそれだけ慣れてくる。それでモースの事を推測するのは結構微妙だけど、多分あいつは預言を実行するにあたってこう考えるようになった。『ユリアが詠まれた預言を実行する自分は多少の無茶ならなんでも通せるから、この行動も預言達成の為に必要な行動だ』ってな・・・まぁ流石に最初くらいはモースも預言に詠まれない行動を取るのはどうか、くらいには考えてはいただろうけどな。けどそれが預言を潤滑に進める為で預言に対して表向き背任するような行動でないなら、一回やってしまえばもうおしまいだ・・・一回楽なことをやってしまったら辛いことに慣れるより、楽なことに人は寄り添ってしまうからな。アリエッタを例えに出すのは比較にならないかもと思うけどアリエッタは被験者のイオンと別れさせられた後、イオンを忘れられなかっただろ?それって言ってみれば別れた事を受け入れるのが辛かったから、可能性は低くても被験者のイオンと一緒にいれればっていう楽しい思い出があったからずっと想ってたんだろ?アリエッタは」
「っ・・・そう、です。イオン様から離れさせられてアリエッタ、ずっと辛かった、です。それでアリエッタ、イオン様の所に戻りたくて・・・」
「そう。楽な所から辛い境遇に行けばどれだけそれがいいものだったのかを理解できる、アリエッタはよくわかるはずだ。けどモースは辛い環境から楽な境遇に飛び込んだ。それはアリエッタとは全く逆の立場になる・・・心の重荷かどうかはあれが思っていたかどうかは知らないけど、一度楽なことを覚えてしまったからもうあえて戻りたいなんて思わなくなったんだと思うぞ。預言達成の為にイチイチ他の事を気にかけるなんて、めんどくさくて辛いことはな」
「・・・それが心の在り方、っていうんですか?モースの・・・」
「少なくとも俺はそう思ってる。だから平気で誰でも蔑ろに出来るし都合のいい物の見方が出来る。何せ物事の達成に楽な道ばかりを選んでるんだからな。そんなもんだからいかにその考えで人が苦しんでるのかを知らないし、知ろうとすら考えてない。ただ預言を実行する事だけが正しいんだってな」
「・・・だからルークにイオン様、モースを捕らえた、ですね」
「あぁ」
「そういうのが上にいるから独裁者ってのは出て来るのよねー。迷惑極まりないわ全く」
・・・いかにモースの心の在り方が歪んでいるか、そう盛大な例えを交えて話すルーク。その中身に自身が例えられたのもあって非常にすんなりとアリエッタは納得の声を上げれば、そこにハロルドが話に入ってきた。それも口調こそやる気がないが多分に実感のこもった声で。







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