必然は偶然、偶然は必然 第十五話

・・・そんなフリングス少将の気遣いに従いブリッジを出、タルタロスの船室の一つにイオン達は入る。
「・・・これでモースをダアトに送り届ければ、しばらくは大丈夫ですね」
「そして表向きモースに従っているヴァン達はその更迭の事実を知らぬまま、時間が過ぎることになる・・・私がヴァンの元にいても何が起こっていると訳がわからないまま時が過ぎるでしょうね」
そこで開口一番やり遂げたと爽快な笑みを浮かべるイオンに、真剣な面持ちで大丈夫だと後押しするリグレット・・・二人がこうやって確信を持って発言出来る。それほどにモース捕縛は大きな事柄であった。
「ただそうするからにはこれからけしてモースが逃げ出さないようにし、かつ誰かの助けが入りモースが救い出されるような事態は避けたい所だが・・・その辺りの対策は取っているのか、導師?」
「えぇ、その辺りは抜かりはありませんよクラトスさん」
そこにクラトスがモースを逃がさないように対策をしてあるのかを問えば、これまたイオンは笑みを持って返す。
「詠師陣にはまだナタリアの事実は話していませんからね。フリングス少将に頼みダアトに戻る前にケセドニアに立ち寄り当時の事実を知る方を引き連れていき、その方という証拠を突きつければ更に詠師陣のモースに対する猜疑心は掻き立てられるでしょう。そうなればモースを助けようという心持ちになる者はいないでしょうし、事実が公表されればまず間違いなくモースの味方をするものはいなくなります。そして今頃はヴァン達がダアトに戻った所で彼らに協力する者はいないと見られる上、彼らが事実を知るであろう頃にはモースの地位を剥奪して名目的に預言保守派の指導者という立場が忌み嫌われる物とする気でいます。そしてそれは下手な異論を挟ませる前に出来る限りのスピードを持って決裁します・・・ですから一部の者への応対さえ間違えなければ、この問題は案外と容易に片付きますよ」
「成程・・・」
・・・その自信の元とはナタリアの事実と突き付けモースに対し残っていた僅かな希望を根こそぎ奪った上で、スピード裁判に持っていく事。当時の真実を知る生き証人までもを引っ張り出すと切り出したイオンにクラトスは納得した声を上げるが、どこかその声には妙な固さがある。
「・・・念のために聞くが一部の者という中にはヴァン達だけでなく、ユリアシティの者も入っているか?」
「勿論、そうです」
「そうか、ならいい」
だが聞かずにはスッキリ出来なかったのだろう。クラトスの念を押す声に迷いなく肯定を返すイオンに、今度は心底納得出来たようで一つ頷く。
「言ってみればモースの後ろ楯はユリアシティですからね。彼ほど預言に狂気染みて殉じて預言を成就させる事に執着を持っている人間はいません。そんな自分たちの望みを叶える彼を助け出そうとする人達なんてヴァンか預言をただ成就させることのみが正しいと思う人、それかそれこそユリアシティの者しかいません。そんなユリアシティを警戒するのは当然ですし、トリトハイム達にもユリアシティ出身の者には警戒するようには言っています。下手に騒ぎだてされれば面倒ですからね」
「妥当だな」
そこから話されたいかにユリアシティの者が厄介かということと取った対応に、クラトスもまた同意で返す。



・・・イオンがここまでユリアシティを警戒するのはひとえに、まだ預言にない事態に差し掛かっていない事が上げられる。以前だったならアクゼリュスが落ちた後パダン平原を支えるシュレーの丘のセフィロトの機能不全の事実を受けようやくルーク達の言葉を受け入れたのだが、それもあくまで預言に詠まれてない緊急事態が起こったからという極めて自身で物事を考えていないという事を露呈した上でだ。そんなユリアシティの者達に今の時点で味方になるよう説得したとて無駄どころか、敵になる可能性が高いだろう。何せ今は預言にないような緊急事態は起きていないのだから。

そして今の現状でモースの事を知ればユリアシティ側はイオンに抗議、もしくは裏でモースを助けようとする可能性が高い。何せモースはユリアシティの意志の代弁者でもあるのだ、何かしらの手はまず打ってくるだろう。

・・・だが今のイオンがそんなことを許すはずもない・・・







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