必然は偶然、偶然は必然 第十五話

・・・ここでモースの仕出かしたことを明かしたとしたなら、確かにダアトの評判は一気に悪くなるだろう。それは事実を知らなかったイオンも例外ではない・・・だが悪い面が目立てばいい面も自然と目立ってくる物である。

確かにイオンが事実を知らなかった事は導師としての責任を問われる事態だ。だがそれ以上に目立つのはいかにモースが預言を大義に誰かと協議することもなく、被害を考えずに事を推し進めてきたかだ・・・この事実が明らかになったならまずモースが矢面に立たされるのは間違いないだろう。何せ世界の根幹を揺るがしかねない事を裏で行ってきたのだから、それを表立って擁護するなどそれこそ出来るはずがない。キムラスカの王女を王の断りもなく平気で入れ替え、導師を預言を達成する邪魔者としてスパイを置いて監視し・・・そしてインゴベルトにはまだ言いはしないが、マルクトに対してキムラスカと戦争させるための裏工作をしてきたこと。

これだけの行動が明るみに出ればいかな預言保守派とて二の足を踏むだろう。モースにただ従い預言を実行することを願うことを。それはその行動がいかに非人道的かと思い至る事もあるだろうが、それ以上に周りの預言に記された事こそ絶対とまでは思えない人々の起こすリアクションにである。

・・・もしイオンが事実を明かしたならたちまちの内にモースは大詠師としての名を地に墜ちてしまうだろう。いかに預言の為とは言え、いや預言だからと言って何をしてもいいと宣うような人物に好き好んで付き従うような者などいないだろう。そんな事を言えば正気を疑われ遠ざけられるか、大詠師派かと迫害を受けるのがオチだ。始めこそそんな風潮が起きても尚モースの取る道こそが絶対という者がいるやもしれないが、すぐに周りがそんな事をさせまいとイオン達が何かをせずともそんな者を片付けてくれるだろう・・・つまりは預言だけが大事だなどと言った態度を取れば自然とモースと同じような危険思想を持っている、と見られるような可能性が高くなるのだそれ以降は。そうなれば余程の狂信者でもなければ以降は大人しくする、大人しくせざるを得ないだろう。

だが対照的に事実を明かしたイオンはそんなモース排除の流れに影響を受けはしない、むしろ悪を排した英雄のような好評価を受けることになるだろう。モースの事実を知らなかった事への批難などモースの犯した行動の重さに比べれば軽い物だ、それどころか事実を知らなかった事を批難してしつこく責め立てよう物なら逆にその者が批難され追い立てられかねないだろう。それほどまでに分かりやすい正義と悪の構図を作ってしまえば多少小さい事ではイオンに流れる人々の信頼は揺るがないだろうし、尚の事イオンの名声に拍車がかかるだけだ。‘敢えて厳しい声に晒されようとも大詠師を排する事を選んだ導師は名君足り得る器がある’と。



・・・つまりインゴベルトに言われたダアトの混乱は、イオンにとって都合のいい事象でしかないのだ。いくら預言を詠むのを止めろと言っても聞く耳を持たない者であったり、イオンにではなくモースにしかなびかない者達をダアトの中から意図的に弾き出す為の事象でしか。

それに確かにダアト全体で見れば預言により築いてきた今までの全世界の民達に貴族達の信頼は失われるだろうが、その反面でいかに導師が大詠師と違い清廉潔白であるか・・・そう示せたのなら導師個人に対する信頼は今までの比ではなくうなぎ登りに上がるのはまず間違いない。それも全世界の人間達が預言に対する見方を変えるきっかけを作ったというおまけ付きでだ。それは預言主導の世界の流れを変えるという意味も含めて言えば、イオンからしてみれば全く損のないことで願ったりかなったりの状況であった。それこそ全くイオンにとって痛くも痒くもない状態で・・・








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