「ですがモースはともかくとしても、我々はそのようなことをしたいとは思っていません。そもそもモースの行動は我々の預かり知らぬ所で勝手に起こされた物・・・それを見逃す訳には参りません」
「そ、そうか・・・」
ここでモースの取るだろう行動の流れを否定するイオンにインゴベルトは少し安心したような声を上げる・・・が、インゴベルトを安心させるだけで終わらせる気などイオンにはない。
「それで・・・ですが陛下、１つ申し上げなければならないことがあります」
「う、うむ・・・なんだ？」
「先程も言いましたがモースは犯してきた行動の諸々を審判するためにダアトに送り、その際に我々はナタリア殿下の件も含めて色々協議する予定ですが・・・彼の色々犯してきた行動はその数が多いため、情状酌量の余地がないものとして見られる可能性が高いものと思われます。それでですが・・・」



「彼の罪を明らかにする時、我々はナタリア殿下の真実も明らかにする事を考えています」



「っ！？」
・・・そこでイオンの口からモースの罪次第でナタリアの真実を明かすと真剣な口調で聞かされたことにより、インゴベルトの微々たる安心が一気に吹き飛び目が最大に見開かれた。
「・・・そ、それは・・・何故、そのようなことを・・・！？」
「・・・今のダアトを変える必要があると思ったからこそ、です」
少し間を空けようやくインゴベルトが声帯から絞り出させた疑問の声にイオンはナタリアを潰す為という気持ちを裏に持ちながらも、同時に偽りなく心底からダアトを改革させたいという気持ちの方を表面に出しながら語りだす。
「私は預言保守派を否定する気はありません。ですが預言だからと言ってそれをカサにきて傍若無人に振る舞ってもいい、とは思ってはいません。現にナタリア殿下の事実をモースから無配慮に聞かされたことにより、陛下のお心は大変傷付く事になりました」
「っ・・・うむ・・・」
そこでさりげに同情を挟むことで、インゴベルトは暗く影を落としながらも確かに頷く・・・こういった小さな心遣いは後で効いてくる物なのだ。すぐには効果は現れずとも。
「私はそのような預言による種類を問わない暴力・・・そういった物を止めさせたいと思ったのです。そしてその最も足る存在がモースであり、大詠師の地位をもって様々な事をしてきました。それらを糾弾するには彼がいかに行動してきたのかを明らかにする必要がありますが、そうするのであればナタリア殿下の事実を明かす必要も出てまいります。何故なら殿下もですがキムラスカも、モースの起こした行動の被害者なのですから」
「・・・だからナタリアの事実を話す、と言うのか・・・だがそうすれば、ダアトの評判は一気に悪くなるのではないか？それもすぐには回復出来ない程に・・・」
「・・・確かに、そうなるでしょう。今まで事実を知らなかった我々は何をしていたのだ、と言われると思います。ですがそれが、我々が出来る贖罪だと思っています。モースのやって来たことに対する贖罪と・・・」
「・・・」
そこに更に重ねるようモースの事実を話すことの意味を語れば、インゴベルトはそうすればするほどダアトにとって不利になるのではないかと言ってくる。だがそれも覚悟済みと贖罪という言葉を用い儚げな笑みを浮かべるイオンに、インゴベルトは何も返せなかった。その覚悟があると、思えるだけに。
（ま、そんなことになっても僕には痛くも痒くもないんですけどね。むしろ預言を偏重するだけの輩をふるいかけれる分、その方がやりやすくなりますし）
だがその裏にあるイオンの心中ははっきりと、これから混迷に陥るであろうダアトの状況を歓迎していた。自身にとって都合がいいと。









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