必然は偶然、偶然は必然 第十五話

「いえ、こちらも色々とモースの件で情報を集めた中でナタリア殿下についての情報があったのです・・・そしてその情報が正しいことを私は今確信致しました。ナタリア殿下は陛下のお子ではない・・・という情報を」
「!・・・そなたも、知ったと言うのか・・・」
「はい、残念ながら・・・」
そこにイオンはいかにも残酷な事実だと嘆くようにナタリアの事を知ったと言えば、インゴベルトは愕然とした様子を見せる。
「この事実を知った時、私はいかにモース・・・いえ、預言を守ることのみに固執する者の思考が危険かを確認しました。そして陛下の今の反応を見てまた、そう思えました・・・」
「・・・わしの反応から、危険だと?」
更にいかに預言保守派が危険かと思ったかと言えば、自身が引き合いに出された事でインゴベルトは何故と恐る恐る聞いてくる。
「いえ、陛下の反応から殿下の事実を知ったのはつい最近の事だと見ましたが、それは間違いありませんか?」
「・・・うむ、それは間違いない・・・」
「ありがとうございます。その殿下の事実を殿下が入れ換えられた時に明かさず、殿下がアクゼリュスに向かった時にモースが明かしたであろうこと・・・これは先程も同じようなことを言いましたがモースがその気になればいざというときキムラスカにとって都合の悪い事実を盾に、キムラスカを操ろうとしていたのではという可能性があったことを如実に示していると私は感じました」
「・・・っ!!」
そこでイオンが先程より心に植えていたモースへの不審を煽るようにキムラスカを操る可能性と持ち出せば、インゴベルトははっきりと目を見開きその可能性に玉座に向かい身を一気に引いた・・・やはりモースの預言達成以外に頓着も執着もないナタリアの事実バラしには、思うところがあったのだろう。明らかに恐怖がその反応にこもっていた。
「恐らくその事実を盾にされたならキムラスカはモースに従わざるを得なくなっていたでしょう。このキムラスカにとって赤い髪に翠の瞳を持つ者が王族の証でありますが、殿下はその身体特徴をお持ちではありません。そこで殿下の事実を明かされたなら・・・キムラスカは偽者を見切れなかったのか、との民からの怒りに失望を買い心は離れると思われます」
「だ、だがそんなことを言うなら預言だからと言ってナタリアの死を隠匿したダアトにも批難が来るではないか・・・」
「確かにそうなるでしょう。ですがモースがそれは預言に詠まれていた事を実行していただけだ、とだけ言えばそれで済む可能性が高くなります。今の風潮で言えば酷く人道を外れた物でなければ預言を実行することは当然、と言った見方をするのが普通です。確かに王女の入れ換えの事を責める方もおられるとは思いますが、預言達成の為に行動したダアトとそれを今まで全く見抜けなかったキムラスカ・・・世論はまず間違いなく事実を見抜けなかったキムラスカに非が集まる、私はそうなると見ています」
「・・・っ!」



・・・預言という物が引き起こす思考の弊害、それがいかにこの世界において重要であり恩恵に預かれないものにはどれだけ厄介なのか。キムラスカ自体がいかに不利なのかも併せた上で預言という物に苦しめられるかと話すイオンに、インゴベルトは辛うじての反論すら出てこず呆然となる。



・・・恐らくまず間違いなく、預言に詠まれたようスムーズにキムラスカとマルクトが戦争をしてキムラスカが勝ったと仮定したならモースはキムラスカの内政を掌握して実権を握ろうとするだろう。その時に脅しの材料として最も役に立つのがナタリアの事実だ。

そうなればイオンの言ったような展開になるのはまず間違いないだろう、ナタリアの事実をバラされて困るのはキムラスカなのだ。入れ換えの事実に気付かなかったのは致命的なイメージダウンになり得て、そうなれば世界を唯一まとめるトップの面目は丸潰れだ。そればかりか最悪、キムラスカに世界の指揮を任せるよりダアトに任せた方がいいと言った意見すら出てくるだろう。預言があるのだから、預言を取りまとめているのはダアトなのだからと預言に重きを置く者達の意見が。



・・・結局この世界は誰かが変えない限りは預言の奴隷にしかなり得ない。しかしそれを変えるなどモースがするわけもないし、ヴァンの施す変化など持っての他・・・そう思うイオンにとって預言に振り回されるキムラスカ、そして変化する世界にとって害悪にしかならないナタリアなど必要ない。そうしないためにインゴベルトを諭し落とさんと、イオンは話を続ける。








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