必然は偶然、偶然は必然 第十五話

「言い逃れは許しませんよ、モース。そもそもダアトに戻ると言うのは私だけでなく詠師達の総意でもあります」
「え、詠師達の総意ですと!?な、何故そんなことが・・・」
「この場にアニスがいない・・・それが答えになります」
「っ!」
だがインゴベルトに助けを求めても意味はないと詠師の総意と告げれば、その意味にモースの視線が焦って再びイオンに向く。そこにアニスの事を暗に示せば、モースの顔から一気に脂汗が吹き出てきた。
「言っておきますがその事に関しては彼らが貴方の背景を洗いざらい調べ尽くした事で証拠は揃っています。そしてその際に諸々の余罪の疑いも出てきました・・・ここでいかにごねたところで無駄ですよ。貴方がもしすんなりダアトに戻らなかったり私を無理にでもここに引き留めようとするなら、その時点で貴方が大詠師の地位を剥奪されるということになってます」
「うっ!?・・・くぅ・・・!」
「セネルさん、クラトスさん。捕まえてください」
「「はっ!」」
更にだめ押しをするように処分について畳み掛けるように言えば、モースは何をとち狂ったのか謁見の間から逃げ出そうと踵を返す。だがすかさず捕縛の指示を出すイオンの声に、クラトスとセネルが軍隊調の返事を返しながらそのでっぷりとした中年の醜い樽体型を追い掛ける。だが百戦錬磨の二人が相手の時点で結果は決まっていた。
‘ドッ’
「がっ・・・!」
すぐさま両サイドから腕を取られ地面に押し倒されるモース・・・本当にあっさりとした捕縛劇だった。全く二人が息を乱していないことからそれは容易に伺える。
「・・・逃げ出した、と言うことはダアトの法に照らし合わせれば貴方自身大詠師の地位を剥奪される物になり得ると思っていた・・・のでしょうね。ですがそれが露見した以上見逃すわけにはいきません。貴方には今までやってきたこと・・・それを全て査問の上で明らかにして、償っていただきますよ。モース・・・」
「ひっ!・・・ど、導師・・・お情けを・・・」
「・・・さぁクラトスさん、セネルさん。モースを連れていって差し上げてください。私はまた後でそちらに向かいます」
「「はっ!」」
「っ!放せ、放してくれ・・・っ!」
そんな姿を見て酌量の余地がないことを予感させるよう冷たく吐き捨てるイオンに、地べたで強制的に向きを変えさせられ見上げる形でその顔を見たモースは恐怖にひきつった表情で情けをかけてほしいと願い出てくる。だが一切そんな気などないイオンが二人に向かって命令を下せば二人は淀みなく返答を返し力づくで立ち上がらせ、嫌がるモースの声を一切聞くことなくその身柄を謁見の間の外へと連れ出していく。
「・・・さて、お騒がせいたしました陛下」
「う、うむ。だが何故そなたも行かなかったのだ?わしとしては今出ていっても良かったと思うのだが・・・」
その光景を見届け振り返り謝罪をするイオンに動揺しつつも、インゴベルトはもう残る理由はないのではと聞いてくる。



・・・無論、イオンも今二人と共に出ていこうと思えば出来ないことはなかった。だがそれをしなかったのには当然訳があるが、その訳とは・・・



「いえ、少し聞きたいことがありまして・・・現在ナタリア殿下はいかがしておられますか?」
「っ・・・何故、ナタリアの事を問う・・・?」
(成程、反応から見てナタリアの事は既に陛下は知っているようですね)
そんな声にイオンがナタリアの事を唐突に口にすれば、インゴベルトは一瞬妙な間を作りつつもその真意を探るよう問い返してくる。その様子を見たイオンは一瞬で理解した、ナタリアの事実を知っていることを。



・・・そう、イオンがここに残ったのはモース捕縛と同じくらいに大切なことであるナタリアがどんな現状であることを知ることであり・・・状況によってその地位から蹴落とす準備を進める事であった。











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