必然は偶然、偶然は必然 第十五話

・・・イオンが詠師達に用意させた物とは全員分の署名が入った手紙だった。いかにモースが傍若無人で預言の達成のみが目的とは言え、導師だけならいざ知らず詠師達全員の意志があると知らされては流石にそれを無視することは出来ない。

詠師達全員から嫌疑がかかっているのにそれを無視するとなれば本当に大詠師の地位を剥奪されかねない上に、それを誤魔化そうとすることすら今の現状では許されないのだ。何故ならダアトに戻る時間がかかればかかるほど大詠師の地位が有無を言わさず、無くなる可能性が高くなるのだから。

そしてキムラスカも今の時点で預言士がダアトの指示で国内から引き上げ以降は預言を詠まないとなれば、臣民からの反発は免れない。その上で今モースが大詠師という地位が正真正銘無くなるとなれば、インゴベルト達もどうすればいいのかという指針を失うことにも繋がる。モースは大詠師であってこそ預言を動かせる存在なのだ、それが無くなってしまえばダアトの隠れた後ろ楯が消えてしまうことに繋がる。そんな事態など今のキムラスカが望む訳がない。

・・・つまりはモースにとってもキムラスカにとっても、詠師達全員の署名は最高の強制力を持つ最悪の切り札と言えた。もし最初からこの場にモースがいたとて、今のイオンを前にしたなら反論などあっても容赦なく潰していただろう。



「・・・では陛下。モースを呼んでいただけますか?」
「・・・・・・うむ、やむを得ん。そう言うことならモースを呼ぼう」
・・・全て用意を押し進めた上で今がある。有無を言わせない微笑でモースを呼ぶよう強制を含んだ願い出に、インゴベルトは観念したようその願い出に首を縦に振る。
(さぁ、終わらせて差し上げますよモース)
その瞬間イオンは心中で楽し気に呟いていた、モースを潰せるその瞬間を思い・・・












・・・そんな観念したインゴベルトは兵士を呼びつけ、モースを呼び出した。そこでジッとモースを待っていたイオン達であったが、少しして謁見の間の扉が開かれた。
「・・・なっ!?ど、導師!?何故ここに!?」
「お久しぶりですね、モース。ですが私達は貴方と論じている時間はありません、共にダアトに戻ってもらいますよ」
ただここに来るよう言われイオンがいるとまでは思っていなかったのだろう。入場してきて出迎えた一同の中にイオンの顔があったことでモースが驚愕するが、そんな姿にニコニコと穏やかな笑みをプレッシャーも添えながらイオンは近付いていく。
「い、一体何故そんなことを急に・・・そ、それに私は陛下に乞われてバチカルにいる身です。そんな状況で私がバチカルを離れる訳には・・・!」
「・・・陛下、モースはこのように言っていますが本当ですか?」
「い、いや・・・わしはそんなことは言っておらんし、導師と共にダアトに戻るようこの場に呼び出したのだが・・・」
「・・・っ!」
その姿にただならぬものを感じたのか咄嗟に行けないと言い出すモースにイオンは立ち止まって振り返り確認を取るが、それを戸惑いながら否定した上で一緒に帰るよう言ってきたインゴベルトにモースが何を言うといった目を向ける。










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