必然は偶然、偶然は必然 第十五話

「それに私だけでなく詠師達全員からも大詠師に対しての不審が起こっている、と言うことが問題なのです。平時の彼らは地位で言えば私達の下にいるのですが、そもそも詠師が複数名いる理由は彼らが僕達の行動の審判を時に引き受ける為なのです」
「・・・それは詠師の六人から見てどのような問題があるのかを協議する為にか?」
「はい。彼らは緊急時は時と場合によりますが、私や大詠師以上の権限を持つことが許可をされています・・・このような大詠師の不祥事など、誰かが裁きにくい問題に対しての緊急時においてですが」
そこで今度話題に出したのは、詠師達は今ダアトで条件付きで自分と同等以上の地位にいるということ。



・・・最高権力者を裁く時、その裁判権を裁かれるはずの最高権力者が持っていたならどうなるか?・・・普通に考えればまず自分の身が可愛いため、甘過ぎると言えるような処置を下すものと思われるだろう。だからこそ裁判所では裁判官というその場での最高権力者がいて然るべきなのだ、それもその最高権力者ですらもがそこではただの一罪人として扱われる程の力に権力を持つ者が。

そして今イオンが言ったこと・・・それはダアトの権力の中枢で異常が起きた場合の処置として、ダアトなりに決めた特例のルールであった。それこそ今のダアトで導師と大詠師・・・この二人が何かしたとして、何か異を唱えることが出来る人間が好き好んでいるわけはない。だがそれでも二人を裁かないといけないとなれば誰が槍玉に上げられるかと言えば、地位的にその下に直接つく詠師達しかいない。だがそれで素直に詠師達が何かを言ったとて、素直に二人が従わなければ何の解決にもならない・・・故に作られたのだ、有事の際には詠師陣が導師に大詠師を裁ける権限を持つことの出来るという制度を。



「その彼らが結託して大詠師の帰還を待ちわびているのです。ですが彼がそれを無視すればいかに彼が何を喚こうとも、その時点でダアトに戻らずとも大詠師ではなくなりローレライ教団より永久に除籍されることになります」
「何っ!?そなたはダアトでの査問の結果次第と言ってはいなかったか!?」
裁判権は十二分にこちらは持っている。そう強調した上で戻らなかった場合でも罰があると言ったことに、インゴベルトは何を言うと驚愕で身を乗り出す。
「それはあくまで査問を受けるためにダアトに戻る場合なら、です。そしてモースを庇ったなら預言士を引き上げさせると言ったのはあくまでキムラスカに対する処置であり、モースに対しての物ではありません・・・そしてそのモースに対してダアトに戻らないことに対し、一番の罰になり得ることが大詠師の地位剥奪及び教団からの永久追放・・・という事なのです。そうなればもう彼には地位も何もなく、例え何かをしようにも何も出来ない状態になりますからね。何せ一般人でしかなくなるのですから」
「・・・っ!」
そんな姿に先程の言葉の落とし穴を突いた形でイオンはモースに対しての苛烈な処置の施し方を述べ、さりげにそれがキムラスカにとって大詠師でなくなるというデメリットがあったことでインゴベルトの目がわずかにイオンの方から背けられた。
「ただその処置が単なる脅しではとか嘘ではとモースに言われても面倒ですから、このように書状としてしたためてまいりました。読まれてください陛下、私だけでなく詠師達全員より署名をいただいてますのでご覧ください」
「っ・・・ふむ、これは・・・っ!」
しかし更なる追い討ちをかけるべく詠師達よりの証拠もあると無造作に近付き書状を差し出すイオンに最初戸惑いこそしたものの、書状に視線を送り徐々に目を見開くインゴベルト。
「嘘ではない、そうお分かりいただけましたか?」
「・・・あぁ」
そこですかさず微笑を浮かべ問いかけてくるイオンに、もうインゴベルトは肯定の声を力なく頷いて上げる以外に出来なかった。









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