必然は偶然、偶然は必然 第十五話

「信じられないかと思われます・・・ですがそれは事実です」
そんなインゴベルトにイオンはその事実の証拠を語り出す。
「事実アニスの両親も借金をしていましたが、彼女の両親のしていた借金の額が他と比べて桁違いだったため、おそらく彼女が一番逆らえない人物だとモースは見たのでしょう。とは言え他の導師守護役の娘達の親もモースの手の者により借金をさせられていたと、借用書を調べて発覚致しました。そしてその詠師達と共に借用書を元に借金をしていた導師守護役の親達から話を聞き、借金を表向き取り仕切っていた者達を捕まえモースが糸を引いていた事を自白させました。ちなみにこちらがその証拠を写してきたものです」
「・・・そんなことをモースが・・・」
ダアトで自分達がどういう風にして証拠を見つけたか、イオンはその道筋を詳細に語りながら証拠の写しという紙の束を取り出し嘘ではないと強調する。そのイオンの一貫した真実を主張する態度にインゴベルトは愕然とした声を上げる以外に出来なかった。



・・・インゴベルトにイオンは言ったが、アニスがスパイの導師守護役として選ばれた理由はその両親の金額の大きさがあったからと見られている。それもそうだろう、弱味が大きい者であればあるほど従順にさせやすいものだ。

だがそれでもタトリン夫妻の借金が他と比べて文字通り桁が違った事は、尚更にイオンの失望を買っていた。全く借金を一向に返す気配がなかったことに。おそらくモースもそう言ったタトリン夫妻の気質を理解していたからこそ、アニスをスパイに仕立て上げたのだろう。

・・・その点で他の導師守護役に親達の処遇も含めイオン達はどうするかを協議してからここに来たわけだが、他の面々は直接的なスパイ行為はなかったことと借金の返済に従事していたことからほとんどの者が罪はほぼないものとされた。例外は全く責任という物を理解していなかったタトリン夫妻にある。現在タトリン夫妻がどうなっているかはバチカルに行くためにどうするかの選択を迫る時間もなかったイオンは後を詠師達に任せた為に分からないが、敬虔なローレライ教団の信者であるタトリン夫妻は初めてに近い形で苦心しているだろうと見ていた。そしてどうなるにせよ、タトリン夫妻にとって苦痛でしかない展開にしかならないだろうと。



「・・・それで私達はそんなダアトの愛すべき民であり、ローレライ教団の敬虔な信者をまるで自らの道具のように扱うモースを引き取りに来たのです」
「・・・うむ、そなたの言わんとしている事はよくわかった。確かにモースはそれだけの事をしておる。だがそなた自身が来るような事なのか?手紙を寄越せばそれで済む話だと思うのだが・・・」
そして紙の束を戻しつつもモースを引き取りに来たと目的を告げればインゴベルトは納得はするが、手紙で事足りた事ではと指摘する。
「他の者でしたらそうでしょう。ですがこれだけの証拠を揃えたという手紙が届いたなら、モースは陛下にマルクトが戦争の用意をしていると言っていた時のように平然と嘘を並べ我々の手紙を無視する可能性が高いと見ました。彼が素直に自分の非を認めるはずがない・・・そのような彼の性格を考えた上で私自身がバチカルに来たのです、彼をダアトに無理矢理にでも連れ戻す為に」
「・・・そうか」
しかし手紙で帰ってくるはずがないと前の謁見の間の出来事を引き合いに出した上で迎えに来たと返され、それがモースの悪評であるにも関わらずインゴベルトは否定せず納得する以外に出来なかった。今の話を聞いて流石にただモースを無闇に擁護するのははばかられたのだろう。



・・・インゴベルトの心は次第にモースから離れていっている、そう判断したイオンは更なる手を打とうと口を開く。








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