必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「さて・・・続きですが、今までのモースの行動から大詠師にいさせ続けるのにも多少無理があると僕は思っています。そこで貴殿方にお聞きしますが、モースをどうするべきだと思っていますか?」
「それは・・・正直な所、大詠師という役職にいる身としては思考が過激過ぎると思いはします。これが預言は守るべきだと言うだけなら私もそこまではと言えるのですが、いかんせんスパイを送ったりマルクトのタルタロスを襲わせたりと大詠師はやり過ぎかと私は・・・」
「・・・それは、私も・・・」
話題転換に上げた問題点はモースを大詠師として祭り上げ続けるべきか、という物。イオンから導師として詠師としての考えを問う声を向けられ、トリトハイムを皮切りにザワザワとモースに対する不審の声が詠師達から上がってくる・・・流石に影でやってきたことを知ってしまってはモースを庇おうとは思えなかったのだろう、事実前も預言を無理にでも強要させてきたその姿勢に教団の中で要職についている詠師もそれについていくことはなかったのだから。
「そうですか・・・貴殿方からそうお聞き出来た事で安心しました、これでモースを辞職させる手続きを取ることが出来ます」
「大詠師を辞職させる手続きを、ですか?」
「えぇ、そうです」
そんな詠師陣が揃った意見を上げる中でホッとした声で出したイオンの言葉に、詠師陣が疑問で眉間にシワを寄せる。
「これが僕だけの意見でモースを糾弾したとしたなら、まずモースは僕の言うことなど歯牙にかけずに全力で空とぼけようとするでしょう。更に予想される手段としては、彼は自身の手の者を使い証拠を握り潰したり僕の口を再び軟禁という形で塞ぎにかかるでしょう。事実僕はマルクトより連れ出されるまでは軟禁されていましたからね」
「それは、確かに・・・有り得ますね・・・」
その視線に対して自身のみで相対した場合のシミュレーションをするイオンに、実例を上げられたのもありトリトハイムは否定の言葉が出ずに頷くしかない。
「その点で貴殿方に協力していただけたなら、話は変わります。僕だけでしたらモースは不満を言うでしょうし、彼を頭に据える預言保守派が何をしでかすかも不安になります。ですがそれが詠師全ての意志を携え覆しようもない証拠を提出したなら、モースはともかくとしても周りを大人しくさせることは出来るでしょう」
「・・・確かに、頷けます。大詠師に特に傾倒している預言保守派はあくまで導師を象徴の物として見ている節がありますから、下手に導師の名前のみで今までの行動を罰する声明を発表すれば大きな反発が起こるでしょうね・・・」
「そう。だから貴殿方詠師達が僕の味方につくことで、そう言った反発を起こすことを防ぐのもですが公平な審査をした上での判断だとの裏付けの役目も負ってほしいんですよ。貴殿方は中立の立場ではありますから、それらを抑えるに十分だと思われますのでね」
「成程・・・」



・・・例え権力があっても、暴力というものは時として権力を上回る事がある。それが権力に対抗する数が集まったなら尚更だ。しかし暴力がいかに驚異とは言え、権力が集まれば暴力に対抗する手段に対しては十分な力になり得る。



いかに正論をぶつけようにも相手はそれを理不尽な手段で崩しかねない事から、味方としてそれを擁護して欲しい。モース排除を成功させる為のイオンから確かな論理をぶつけられ、詠師達も否定の言葉が出ずに顔を見合わせる。











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