必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「もしアニスが逃げ出したとして誰とも知らない者に捕まったとて、その者達は大して使い道を見出だすことなどないでしょう。ですが貴女がタチの悪い輩に捕らわれたなら、貴女は利用される可能性が高いでしょうね・・・新たなユリアの子孫を強制的に産ませる為の道具としてね」
「!?そ、それは・・・っ!」
「いくら貴女方グランツ兄妹が罪人とは言えその身に流れる血がユリアの血脈であることは否定出来ませんからね。もし逃げ出したならそれを聞き付けた良からぬ輩が何を目的とするかは分かりませんが、ユリアの血を取り込もうとしかねません。そうなれば貴女の人権など全く考えてもらう事もないまま子供を産まされる事を強制させられるでしょう。何しろ罪人ですからまともな扱いをしなくても大丈夫だと思われる可能性が非常に高い」
「・・・っ!」
・・・そのイオンのティアにとって最悪極まりない予想に、ティアは想像以上の予想に青白い顔になりガタガタと震え出した。



・・・罪人に人権はあまりないと言っていいが、それでも牢に入れられていれば理不尽な外の暴力に悩まされる事はない。牢とは一般人からは遠く離れた限られた人間しか入れない一種の僻地なのだから。

しかし罪人が罪をあがなわず逃げ出せば誰も保護しなくなるのだ、憎くて叶わないと思っていた牢が恋しくなる程孤独になる形で。

牢の庇護のない脱走した罪人など大体の一般人から見れば人に非ずとすら見られることもある、事実それだけの人として失格の事をしているのだから。

その事を踏まえて脱走したなら、ティアをかばう人間などまずいないのだ。脱走した罪人など、好き好んで庇いたい人間はいない。そんな状況においてユリアの血族というブランドを持つティアを利用すればその血を取り込める、となればそれこそいかなる手段をもってしても取り込まんとする輩は出てくるだろう・・・子供を産む為だけの機械に仕立て上げることを目論む形で。

ただそれは無論最悪の場合であり、脱走への歯止めをかける為のイオンの脅しである。実際にそんな事態になり得る可能性は相当に低い、最悪の可能性はそうゴロゴロ転がってはいないものだ。現に公言はしていたとは言えグランツ兄妹がユリアの血族だと知っている者はそこまでいない。ただあくまで重要なのはティアに希望を残さないこと、そこにイオンの狙いはある。



「とは言え罪人を脱走させたまま、となればダアトの名折れでもありますからね。脱走したならいかなる手段をもってしてでも貴女を見つけ出し・・・その場で死んでいただきます」
「っ!・・・いやっ、いやあっ・・・私は、私は、そんなことをしたつもりはないのに・・・っ!」
・・・進むも地獄、留まるも地獄。どうあがこうとも逃がしはしないと冷たく宣言するイオンに、ティアは現実逃避に入るかのように虚ろな目に涙を浮かべつつ首を横に振りながら子供じみた言い訳を口にする。
(そんなつもりはない、ね。ルークの気持ちも測らずルークを責め続けた貴女に、そんなことを免罪符にさせる気はありませんよ。精々そう言い続けなさい、後悔も反省もしない貴女には恐怖に怯える姿がお似合いです)
そんな姿にイオンはただ冷ややかに視線を送り、心中だけで冷淡に言葉を送るに留まる。



・・・結局ティアはどこまで言っても自分の基準に基づいた考え方以外は出来ない人間だ。それはイオンの言葉でルークへの態度を変えなかった事からも明らかである。

そんな人間にこれ以上言葉を用いて改心することも含めて会話をする必要などない、ただ宣告をすればいいとイオンは考えていた。いくら否定しようにも否定出来ない、現実という場にティア専用の地獄を用意しているという宣告を。



・・・アニスと共にいくらでも泣けばいい、イオンは既に自分を見ていないティアにただ冷めた目だけを送るばかりであった。






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