必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「アニス、これで貴女の懸念していた両親の借金の問題も解決します。良かったですね、これで貴女はモースの手の内から逃げられますよ」
「ま、待ってくださいイオン様!私は、私はどうなるんですか!?パパとママは借金を返すかどうかだけで話をしてるけど、全くイオン様の口から私の事について触れられてない・・・っ!」
「あぁ、気付いてたんですね・・・自分がオリバーとパメラの二人と分けられていることに」
「っ!」
冷笑のまま労るように声をかけられたものの、流石にすんなり終わるとは思っていなかったのだろう。アニスは自身の事について怯えながらも必死に声を上げるが、待っていたと言わんばかりに冷笑が深まるイオンにビクッと反応する。
「まぁ大方想像はついているでしょうが、スパイだけなら貴女はダアトで裁けたのですがマルクトにとっての不利益を被らせた点もあり、そう簡単にはすみません。まぁ予想されるのはこのダアトで貴女のしたことの詳しい供述を念入りに取った後、マルクトの返答次第でダアトで裁くかマルクトで裁くかどちらかが決まるでしょう。その時に二人にはスパイの事実を知っていただき、先程の二択のどちらかを選んでいただきます」
「・・・そんな・・・」
「また、どちらが貴女の罪を裁くかの場合ですがはっきり言っておきます。どちら預りでもまともに日の目を見るような判決は出ないと思っておいてください・・・マルクトもですが、僕も貴女に許しを与える事はありません」
「!!・・・っく、ひっく・・・!」



・・・アニスに待ち受けている物はどうあがいても先の全く見えない、真っ暗な道。そしてそこに突き落とすのは他ならない自分。



イオンから絶望への渡し船を渡されたアニスは衝撃に項垂れたかと思えば、静かに声を押し殺して泣き声を上げる・・・だがアニスの泣き声になど興味が湧こうはずもないイオンは、それを眺めながらも別の事を考える。
(やろうと思えば連座制を使い二人をアニスと共に一族共々犯罪者に出来ない事もありませんでしたが、二人には娘と共にあがなってもらうより娘を失ってもらった方がキくでしょうからね。それに性格上ダアトを離れるとも思えませんから、これで成功と言っていいでしょう)
その別の事とは別のやり方もあったけどこれが一番罰になるだろう、という物である。



・・・このオールドラントでは滅多に起こりうる事でもないのだが、大変な罪を犯した人間に対してその当人だけでなく一族朗党全てに罪があると言いまとめて裁く連座制を用いた裁判が行われる事がある。有り体に言えば一人の失態の為に全員が巻き込まれる連帯責任のようなシステムだ。

そんなシステムを使えばタトリン夫妻共々アニスのように追いやる事も出来たのだ、元々の責は夫妻にあるため尚の事不可能ではない。だがそうしなかった理由とは、タトリン夫妻の一種狂気染みた自分達への執着の無さにある。

かつてダアトでアリエッタと遭遇し魔物の攻撃でイオンはとばっちりを受けそうになったが、それはパメラが何の躊躇いもなく身代わりになったことで事なきを得た。その時はルーク共々感謝したが、今になって思えばあれは自分の事に執着がないからこそ出来たのだとイオンは考えていた。

預言が大事、困ってる人を放っておけない、自分が騙されたことに目を向けようともしない・・・これらの中には自身による自身の為の喜びなど微塵もない、あるのは他者に生きる理由を依存しているだけの思考を放棄したものでしかないのだ。

・・・そんな人物達に後悔をさせ反省をさせるにはすぐに終わるきっかけを与えるのではなく、自らの頭を動かさせるようにじっくりと仕向ける方が大事。それも絶対に逃避をさせないようにすることが。その点で敬虔なローレライ教団信者である二人が聖地であるダアトから逃げ出す事はまずないと、イオンは見ていた。



(まぁこれでアニスとオリバー達の問題は一先ず終結しましたから、次は・・・こっちですね)
・・・後はどうなるかの結果待ち、そう判断できた事でイオンは隣にいる明らかに動揺で目を見開いたティアに視線を向けた。











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