必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「「「「っ!?」」」」
・・・それこそ以前のイオンなら絶対に有り得ないであろう、タトリン夫妻に対しての苛烈な仕打ちを告げる言葉に詠師陣もアニスも絶句し目を見開いた。
「ど、導師・・・それは、何故・・・?」
「何故も何もありません。借金をしたら返す、それは人として最低限の常識でしょう。ですが話を聞く限りでは二人は借金を返す事より騙されてるとか関係無く、人の為にお金を使うことが大事と思っている節がありますからね。だから借金をするなとは事情がある人もいるだろうから言いませんが、本来借金とはお金を返すという約束があって成り立つもの。間違ってもお金を無償でもらうような行為ではありません。だからこれを機に人からお金を借りることを禁じさせてその借金を返す事に殉じるならそれでいい・・・と言いたいんですが、それを言い聞かせて二人が分かってくれるかどうか正直微妙だと思うんですよ。娘の言葉を全く意に介さずに借金をしてきた二人ですから、結局情に訴えるような詐欺にあったら言いつけを背きかねない可能性もあります」
「っ!それ、は・・・確かに・・・」
そこに動揺から復活した詠師の一人が訳を問うが、イオンが道徳的であり現実的な視点を織り混ぜた解釈を述べれば有り得ると感じたのか納得の声を気まずげに上げる。
「そうなったら僕も前歴があるため、あまりこう言いたくはありませんが彼らをより厳しく罰しない訳にいかなくなります。借金をし過ぎていて今の現状なのに、それを易々破られては情状酌量の余地が無くなりますからね・・・ですから選んでいただきたいのです。絶対に借金をしないことを念頭に置いてダアトに残るか、借金を返さなくていい代わりにローレライ教団員でなくなりダアトの土も踏めなくなるかをね」
「そ、それは・・・いいのですか、借金を返さなくても?」
「彼らの借金に一貫して関与していたのはモースですからね。責任を彼に追及してしまえばそれをタトリン一家から外すことも出来るでしょうが、それでは彼らは何の罰も無しに終わってしまうことになりかねません。その点で彼らは敬虔な教団員ですから、教団員でなくなるのは相当な罰になります。そしてそれは彼らにバックがいなくなり、もう借金を肩代わりしてくれる人がいないことにもなります・・・そこから彼らがどうするかはもう勝手ですから、自己責任で済ませていただけます。こちらに迷惑はかかりません」
「な、成程・・・」
更に続けた二者択一の片方のメリットと罰の意味を語るイオンに、詠師も引きつつもまた利にかなっているだけに納得するしかない。



・・・だがそもそも、イオンがタトリン夫妻をここまで責める理由はまた別にある。それはかつての未来にてアニスの愚行を増長させたのがタトリン夫妻の考えなしの励ましがあったことがあると、見ていたからだ。

本来ならアニスが取った世界を巻き込む周りを見てない暗愚な行動を、タトリン夫妻は諌めるなり助言を送るなりしてほしいとイオンは思っていた。しかしタトリン夫妻は共通してアニスは頑張っているから認めてほしい、とアニスの空回りを良いように解釈をして同情するだけというこれまた暗愚な行動に走った。両親としてちゃんと中身のある叱咤を送って欲しい、そんなイオンの願いも全く届かない形で。

・・・そんなタトリン夫妻の行動に絶望を覚えたイオンだが、更に絶望を覚える事をタトリン夫妻はしてのけた。それは借金がアニスを歪めイオンを殺した元凶であると知っているはずなのに、それを全く教訓にしたようでもなく困った人達と接すると以前のように借金をしてまでその人物を助けようとしていたことである。

まぁ確かに世界情勢の変化にダアトの状況の悪さから確かに真に困っている人もいたが、所詮人がいいだけの人間など悪人にとっては格好のカモにしかなり得ない。結局困ったフリをした悪人によりタトリン夫妻はまた良いように食い物にされていった、イオンの時の事も忘れ思考を放棄したように。



(終わらせて差し上げますよ、ダアトにおけるタトリン家をね・・・)
・・・人がいいのを美徳だと思いタトリン夫妻をイオンは好意を持っていたが、その後に人間として全く成長も変化もない姿を見てルーク共々タトリン夫妻を好意的になどとても見れなくなっていた。



だからこそアニスと共に自分ごときが死んだ時とは比べ物にならない事態に追い込むと、イオンは冷笑をアニスに向ける。








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