必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「それならそれで貴女はせめてとモース以外の誰かに相談なりして両親の事を話すべきでしたが、なのにそれをしなかった・・・それは何故でしょうか?」
「っ・・・しょ、しょうがなかったんです・・・もし誰かに言ってそれがモースに伝わったらって思うと、それが怖くて・・・」
「成程、確かに一理はあります。ですがこうは考えられなかったのですか?僕にその事実を明かす、という事を」
「っ!?」
「・・・考えた事すらなかったようですね」
・・・そこで指摘するのはアニスが何故誰かに事実を明かさなかったのかということ。そんな指摘にアニスは一応正論と言える慎重な答えを返すが、反対に自分を頼ればよかったという答えを返すと盲点だと言わんばかりに驚愕する表情に、イオンは分かっていたことだが呆れて顔をしかめる。
「普通に考えればいくらなんでもスパイを仕掛けられる相手が仕掛けた相手に協力するなんて有り得ないでしょう。そのスパイに罪を着せる為だとかの凝った仕掛けなら話は別ですけどね。なのに貴女はそう言ったことを考えもしなかった。それは貴女が状況打開を真剣に考えることもしなかったいい証拠です」
「そ、それは・・・」



・・・普通に考えればモースがイオンにスパイを仕向けてきたのに、事実を明かしたらイオンがモースに対しアニスが不利な事を告げ口をするとは思わないだろう。ましてや敵対勢力のトップ同士だ、余計にそう言った事態になることは有り得ないと思うだろう・・・それが本気で状況打開を思ってるなら尚更だ。



状況からすなわちアニスはスパイになることを甘受していたことと同義、そう言われていることにアニスの口からは言い訳の言葉は出ない。
「・・・という訳です、アニス。貴女は結局モースの手をはねのける事などなくスパイとしてその活動を全うしてきた。その行動の結果も相まって情状酌量の余地は無くなりました・・・ただこの時点で言えることはもう貴女の導師守護役という地位に、貴女はいられる事はなくなると思っておいてください」
「っ!・・・そ、そんな・・・」
そんなアニスにあえてまだ導師守護役の解任という確定事項だけを告げるが、それでも今の立場が無くなるだけでアニスは顔面蒼白になり顔を伏せる。
「でしたら導師、新たに誰か適当な導師守護役を急いで連れてきてお付けいたしますか?」
「いえ、それは待ってください・・・導師守護役の人事権はモースが握っていますからね、アニス以外に息がかかったものがいないとは限りません。だからモースがいない今の内に後ででいいので、他の導師守護役の彼女達にも裏の事情があるかどうかを探ってはいただけませんか?正直今のままではアニスを離しても、他もそうだったらと考えたら心からは安心出来ませんので」
「はい、わかりました」
そんな様子にトリトハイムが会話の合間を縫うよう気を使って導師守護役の事を申し出るが、それこそ以前から警戒していたのもありイオンは首を横に振った後トリトハイムに調査を命じる。
「あぁそれとついでに、オリバーとパメラも後で呼んで貴殿方で話をしておいてくれませんか?」
「タトリン夫妻に・・・ですか?」
「え・・・?」
そして思い出したようにタトリン夫妻の事もと追加したイオンにトリトハイムだけでなく、傷心したアニスも虚ろな視線を向ける。
「彼らに借金の事で注意でもするように言うんですか?」
「注意、とは少し違います。彼らに選んでいただきたいのです」



「このままダアトで借金を返す道を選ぶか、ダアトを出る道を選ぶかをね」







6/18ページ
スキ