必然は偶然、偶然は必然 第十三話

「それは・・・?」
「これは僕がマルクトに請われダアトから出る前、モースの部屋に忍び込んで拝借した・・・いわゆる報告書、と言ったものです。中身を見てください。これは専属で付いていた導師守護役である彼女以外に書けない物です」
「・・・こっ、これは!?」
「・・・なん、で・・・!?」
・・・イオンの懐から出て手に握られたいくつかの便箋の束。それを報告書と言われ渡されたトリトハイムは中身を改めていくと、はっきりと驚愕に目を開きアニスは信じられない物を見る目でイオンを見る。そこには真っ向から返すイオンの冷たい瞳。
「信じられませんか、アニス?証拠があることが。中身が中身ですからね。モースも下手に処分をしたらその事実を他の者に悟られかねないとでも考えていたのでしょうから、こまめに処分をせずある程度してから一まとめに処分していたのでしょう。秘密を守れる者に焼却なり処分を任せる形でね」
「・・・!」
アニスにイオンは自身の推測を持って返すが、その答えにアニスの体が一瞬でガタガタと震え出す。



・・・スパイから渡されてくる報告書。これは職務に関係する重要な書類に並ぶような物ではなく、むしろ個人的な物にしかならない。しかもそれがバレれば今ある身分が全て失われるほど危険な物。

そんな物は普通ならさっさと処分するに限るのだが、案外と紙を破るだけ破りゴミ箱にポイと捨てるのは危険なのだ。中身を改められる可能性が全く無いとは言えないために。

ただ預言以外に関心がないモースがそんなチマチマとした工作を結構な頻度でやるなど、それこそ有り得ない。だからこそ報告書の処分などはタイミングが悪くない限りないだろうと考え、イオンはモースの部屋に忍び込んだのだ。それもアニスが隙を見せた時に。



「・・・さて、アニス。もう理解出来てますね、貴女がスパイをしていた証拠がここにあるのは?」
「・・・はい・・・」
「待ってください、イオン様・・・!・・・アニスが、アニスが理由もなくそんなことをするはずがありません。何か、理由が・・・!」
・・・逃がさない、逃げられない。そんな二つの意識の構図が出来上がっている会話に、ティアだけがただアニスの擁護に必死に声を上げる。
「・・・まぁ僕も理由があるなら、と思っていた時期がありました。ですがもうそんなこととは別の次元で事は動いてしまってるんですよ」
「え・・・?」
「これはトリトハイム達は知らない事でしょうが、僕達はグランコクマからタルタロスに乗ってキムラスカに向かう時六神将率いる神託の盾に襲われました」
「「「「はぁっ!?」」」」
しかしティアの擁護になど何の力もない。新たな手であり詠師陣にとって寝耳に水な事実であるタルタロス襲撃を残念だという雰囲気を漂わせながら口にしたイオンに、初耳だと言わんばかりの大きなリアクションを詠師陣は浮かべた。
「ど、導師・・・それは真なのですか・・・!?」
「えぇ、事実です。そしてこれは僕達に改心をし投降してくれたリグレットにアリエッタからの情報ですが、そのタルタロスに襲撃を仕掛けるよう指示をしたのはモース・・・とのことです」
「「「「っ!?」」」」
未だ信じられずにいる様子で口を開くトリトハイムに、イオンはさりげなくリグレットとアリエッタの二人は味方と言いつつ指示はモースが出したと明かし詠師陣にティアが一気に冷や汗混じりに息を呑む。
「そのモースからの指示によれば詳しい航路の情報も付随されていて、それを元に六神将は襲撃を企てたようです・・・本来ならマルクトからの和平は秘密裏に行う予定でした。そして僕もその指針に賛成しました。しかしアニス、貴女は僕だけならいざ知らずマルクトにまで多大な被害を与える形でモースに情報を渡した・・・理由があるとかないとか関係ありません。貴女はマルクトまでもをはっきりと裏切った。それはもう看過出来る問題ではありませんよ」
「・・・そん、な・・・っ!」



・・・以前のイオンであったら自身の命を投げ売ってまでアニスを助ける程に思い入れはあったが、今ではそれがどれだけ子供の身内びいきだったかが思い知らされる。



導師として真に正しい言葉を厳しい視線つきで自身に向けられ、アニスは愕然として膝をついた。








4/18ページ
スキ