必然は偶然、偶然は必然 第十二話

「・・・あの・・・結婚させるようにって、それはなんで・・・?」
『いやまぁ、これは俺の個人的な望みだ』
・・・結婚させることが何故そこまで深刻なのか。イオンは未だその意図が分からず戸惑い疑問を向ければ、イクティノスは少し苦そうな声を上げる。
『お前も話は聞いたかとは思うが、あいつは独身を貫き通しその生を終えた・・・それはいいか?』
「はい、それは僕も聞きましたが・・・」
『あいつはあいつの考えがあったのは百も承知だ。現に俺はその原因の一端を知っているからな』
「え?イクティノスさんは理由を知っているのですか?」
『あぁ、これはウッドロウの前では言わないでくれ・・・あいつが結婚しなかった理由。その一端はかつて好意を持った女の事を忘れられなかったからだと俺は思っている』
「好意を持った人、ですか?ですけどウッドロウさんほどの地位についてた人ならその人の事を娶るのは簡単に出来たのでは?」
『いや・・・その女には既に夫がいた。それもウッドロウが入り込む事が出来ない程の固い絆を持っていたのだ』
「っ!・・・そうなんですか・・・」
・・・そのまま順を追いマリーとダリスの事は名前を出さないよう説明したイクティノスに、イオンは自身の軽率な発言に目を伏せつつそうだったのかと理解する。
『ウッドロウと別れたその後の事はこの世界で本人から聞きはしたが、らしいと思った反面俺はそんなに一途にならずにいろと思いもした。王としての責務を果たすなら例え望まぬ相手とは言え良き妻を娶る事で子を成し、国民を歓喜させることも必要だろうとな』
「・・・ふふ。もしイクティノスさんがその場にいたなら口酸っぱく結婚しろと言っていたでしょうね」
『・・・ウッドロウの考えも分からんわけではない。だがあいつは後々の為に民主制を立ち上げた事や父のイザークにも劣らない賢王となった事を差し引いても、ファンダリアの王としてやらねばならんことを結果やらなかったのだからな。もし俺がいたならそれこそ結婚を決断するまで色々言っていただろう』
「ふふ・・・その光景が目に浮かびそうです」



・・・その上でケルヴィンというファンダリアを治める王族の血を絶やしたことは、いかにウッドロウの功績があるとは言え王族としてはやってはいけない。それでも王がいなくなってもやっていけるようにした力がウッドロウにあったから波乱はあれど収まりを見せたが、そうなっていなかったらただのわがままで王族の血を絶やした愚か者とウッドロウはなっていただろう(その辺りの力及び自分がいなくなった先を見通す目があるからこそイクティノスもローレライも信頼しているわけだが、例え結婚しなかったマイナス点を差し引いても)。



そんな未来も有り得たと想像するイクティノスがその時存在していたならと、想像するイオンは微笑を浮かべた。そのウッドロウのなだめるような声をイクティノスは静かながらも熱く熱を持たせた理屈を用い、説得する姿を。
『・・・とは言え、だ。俺はいなかったし周りもその立場の事もあって、ウッドロウに強く言えるヤツがいなかっただろうというのが仇となったな。まぁそれは過ぎてしまったことだからどうしょうもないが、ここからが問題だ。元々ウッドロウはお前たち二人の治世をサポートするためにここに来ただろう?』
「・・・はい」
そんな微笑を浮かべていたイオンだが、イクティノスが改めて真剣に問題提起をしてきたことに口元を引き締める。
『そのウッドロウをキムラスカかダアトのどちらに行かせるかはまだ決まってないが、国王や導師にある程度近くて高い地位にいなければ意見の交換なども出来んだろう。そしてそんな地位にいれば当然ウッドロウにも縁談は勧められてくる。そんな時にウッドロウが素直に縁談を受け入れるとは、まず俺は考えられんのだ』
「あ・・・確かに、そうですね・・・」



・・・国の上層部に食い込むような人物ともなれば降ってかかる問題は多いが、婚姻問題は特に重要になってくる。下手に理由もなしに縁談を断れば、機嫌を損ねたと相手方の人間を敵に回しかねないからだ。



例えウッドロウならうまくそれらをのらりくらりとかわせるとしても、拭っても拭いきれない一抹の不安があるのも事実だった。








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