必然は偶然、偶然は必然 第十一話

「そうなったら、ママとかイオン様とか・・・どうなる、ですか・・・?」
「クイーンに導師くらいならヴァンはその後に残る世界でお前の為に移住をさせるくらいはするだろう。だがそれはあくまでもヴァンに従うならの話で、それに従わない姿勢を見せれば切り捨てるくらいはヤツはするだろう。だがどちらにしてもヴァンの思うよう世界を滅ぼしたなら、後に残るのはヤツの為による狭い・・・狭い自己満足だけしかない世界だ。そこにはヴァンの意志によるやり方しか存在せず、お前はおろか導師にクイーンの意志など存在しないのだアリエッタ。やり方に異論を唱えたならやるべきことを成し遂げたから用済みだと殺されるか、情けをかけられ見捨てられるのが精々の関の山だろう」
「っ!」
だがそれでもアリエッタの世界にある大事な物はライガ達家族とイオンで、その2つを守れるならと思ったのだろう。ヴァンに対する希望を込めた質問をするアリエッタに、リグレットは自身の後悔までもを込めそんな優しいだけで済ませるようなタマではないと歯向かった場合に待ち受ける処置を重く告げる。その答えにアリエッタは息を呑み涙を浮かべて揺れた目を向けるが、リグレットは尚も続ける。
「アリエッタ、お前が欲しいのは全てを壊しヴァンを含めた何人かしか知り合いのいない作り物の世界か?」
「・・・それは、違う、です・・・アリエッタ、確かに周りの人がイヤだった時もあった、です・・・けどだからって全部の人が死ぬのは違う、と思います・・・」
「そうか・・・」
そこで確認するのはアリエッタが根本ではどう思っているのか。真剣な問い掛けにゆっくり首を横に振ったアリエッタに、リグレットの安堵が僅かにこもった声が響くと同時にルークとイオンは互いに視線を交錯させ小さく頷く。



・・・そもそもアリエッタが最後までルーク達と戦いその果てに死んだのは、大事な者達が例え本意に起こした事ではないとは言えことごとくルーク達の為に死んだ事が大きい。それが前述の二者である。

だがそんな2つの悲劇など起こり得ていない、今回は。クイーンはアリエッタ自身が保護したし、イオンに至っては現在目の前にいる。つまりはルーク達を憎む理由など今のアリエッタには存在しない、そう考えればイオンがいることもあり敵対する明確な理由などないのだ。

・・・ただ敵対しなければならないとしたならそれはアリエッタにとって二者以外に残る強い繋がりであるヴァンの命令、そこの声があるかに尽きる。だからまずはヴァンの信頼を削ぐと同時にアリエッタの考え方を問う質問をしたわけだが、二者を失ってないことから世界に当たり散らす程の激情を持っている訳ではないと言うのが幸いしていた。ただ・・・



(これまではいい、ただこれから後は覚悟が必要だな・・・)
アリエッタの気持ちを確認出来たが、これから先の話はそれこそ失敗すればマズイとルークは自分も動けるようにアリエッタに強い瞳で視線を戻す。



・・・そもそもの話で言うならアリエッタが慕った被験者のイオンは2年前に死んでいる。その事に関しては否定しようのない事実だった。ただそれはアリエッタには言わなければ幸せなままでいれるのでは、と思うかもしれないだろう・・・だが事はそう単純ではない。

これから先イオンはアニスの為にもティアの為にも死ぬ気はなく、導師として生き続ける気があるがそうなれば直属の導師守護役の問題がある。そうなればまたこの2年のように何故自分じゃないのかと言われ、悲しむのが容易に目に浮かぶ。その上これからはヴァン率いる神託の盾との戦いは避けられないのだ。そこでラルゴはともかくヴァンにシンク辺りは事実をルーク達の混乱を招くために暴露しかねない。故に後々を考えたならどんなに難解な事でも、ここでアリエッタの説得をすることは必須なのだ。



「・・・それにだ、ヴァンがレプリカ技術をもってしてやったことはまた別にあるんだアリエッタ」
「え・・・?」
・・・アリエッタの気持ちを段階を踏んで事実を受け入れるよう整えた今、言わなければならない。リグレットの覚悟の決めた切り出しにアリエッタは不安に満ちた声を上げ、ルーク達の緊張は否応無しに高まる。








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