必然は偶然、偶然は必然 第十話

「・・・さて、んじゃお前らも牢に入ってもらうか。これ以上ここにいさせる理由なんかないからな」
「待って!せめて最後に1つだけ聞かせて!」
「・・・なんだよ」
そんなアッシュを完全に気圧したルークが立ち上がり退場させようとするが、ティアが性懲りもなく口調を改めずに声を上げたことにムッとしながらも先を促す。
「・・・教官、何故貴方は兄さんを裏切ったんですか?貴女程兄さんに忠実な人はいなかったのに、何故・・・」
「・・・それをお前が言うのか?ティア」
「えっ・・・?」
だが質問の矛先はルークではなくリグレットで、中身はヴァンへの裏切りを疑う物。自らに向けられたいっそ二人の仲は敵であっても変わらないで欲しかったとすらいう希望がこもった声に、リグレットは逆に失望を多大に含ませた声で返す。
「お前はヴァンの妹なのだから、本来他人でしかない私より信頼があって当然なのはお前のはずだ。そんなお前がヴァンを殺そうとした行動を棚に上げ、人の変心を疑うのはおかしな話だと思うがな」
「っ・・・ですが、兄さんの計画に賛同していた貴女が何故今・・・」
「・・・今私が言っただろう、変心だと。いや、少し違うな・・・私の中にあったものを改めて見直した結果ヴァンの取った行動に今更だが賛同出来なくなったからこうした、という方が正しいか・・・だからこうして導師の側に付く事を選んだのだ」
「・・・教官・・・」
そのままの声色で平然と返しても尚疑いを向けるティアにリグレットは真剣に過去を見直したと真に分かるよう思い出しながら答えれば、ティアも複雑な表情以外に浮かべられなかった・・・が、過去を思い返すその表情から一転リグレットの表情が無に変わる。
「とは言え、だ。お前にこれ以上かけるべき言葉はもうない・・・それでは導師、改めて牢に繋ぐよう通達のお言葉を」
「はい。ではお願いします」
「はっ!」
「っ・・・教官、イオン様・・・!」
まるでティアを見ない、むしろ見る気などこれ以降浮かべる気さえない。そんなリグレットとイオンのスムーズな引き渡しに他の兵士がガイ達を連れ出す中、ティアはたまらず不安にかられて声を上げるが兵士は無慈悲にただ引き連れその場を去っていく。



「・・・いいんですか、リグレット?彼女を助ける気は無いんですか?」
「いえ、そのような気はありません。ティアと私の道は別たれましたから」
・・・そして全員がブリッジから引き連れられた後イオンがわざとらしくとも取れるようにティアの事を聞くが、リグレットは首を1回だけ横に振りキッパリ否定する。ティアを救う気持ちは自分には無いと。
「もし厳格な処分が待っているその立場から助け出したとしても、ティアは何も変わらないでしょう。ティアの世界はひどく狭い物で構成されています・・・あの封鎖された環境のユリアシティで記憶も定かではない時代から育ち、話に聞いたファブレ公爵邸の襲撃事件までまともにダアトからすら出ることもなかった・・・せめてまだヴァンのやったことを知らずにいたなら兄と同じ場所に配置されることを夢見るわがままの過ぎる一兵士として、仕方なしにヴァンの配下になるか体のいい左遷をされて終わっていたでしょう。ただそれは一時期を経て私の教鞭に従順になったことをきっかけに大丈夫だと思っていましたが、私の指導の不行き届きがあったとは言え今ならはっきり言えます。ティアでは貴方達の見てきた未来の通りの自分勝手で傲慢な未来しか作れませんし、そのような未来になどさせる気はありません。それに前とやらも私とティアは最後まで平行線のまま終わったのでしょう・・・だからこれでいいんです」
「そうですか」
そう思うに到った考えを自身の不徳を交えた上で語ったリグレットに、それ以上は何も聞かずにイオンは納得の声を上げる。











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