必然は偶然、偶然は必然 第十話

「さぁさぁ、そんな状況になる可能性が高いっつーのにどうやってナタリアの相手役になるっつーんだ?適当にあしらわれて捕らわれるのがまず目に見えてんぜ。マルクトへの戦争の口火を切る最高のきっかけは出すわけにはいかないって・・・あ、いやちょっと違うな。もしかしたら戦争の口火として申し分ないってマルクトを侵略すべきと見る打倒マルクトを旗印にする過激派に筆頭に据えられかねない可能性もあるな。ま、どっちにしてもお前が素直にキムラスカに戻った所で監禁及び内密な処分が下されるか、戦争のシンボルにされるのがいいとこだろ。お前そんな事に巻き込まれる可能性高いっつーのに進んでキムラスカに帰りたいってまだ言えるか?」
「・・・っ・・・っ!」
インゴベルト達はまず歓迎はしない、いや最悪文字通り戦争のシンボルとして使い潰す輩が出てくる可能性すら有り得る。そんなルークのどちらとなってもアッシュにとって望まれない仮定を聞き、アッシュからは強がりの言葉など一切出てこず下を向いて何かを否定してごまかすよう首を振るばかり。



・・・いかに鶏頭のアッシュとて預言の事があるため、今の現状でバチカルに戻ればまず戦争の道具及び預言達成のコマとして今度こそ自分が強制的にアクゼリュス崩落をさせられるということに行き着いたのだろう。そうなればナタリアを取り返し結婚するなど無理だという話どころではないと。

だがアッシュは気付けてない、ルークは預言という言葉を用いてはおらずただ現実的な視点から見て物事を言っている事を。だからこそ力づくでも物事を押しきる事が無理なのだと理解してしまっている事を、アッシュは気付けてない・・・



「・・・ま、どっちにしてもだ。お前には逃げ場なんて何処にもないんだよ、キムラスカにもダアトにも、勿論マルクトにもな。ましてやナタリアの元になんざとても行けやしねぇよ。何せお前は『ルーク』を捨て『アッシュ』であることを選んでたくさんの罪を犯して行動したんだからな。そんな身分貧乏でキムラスカの恥にすらなり得る犯罪者のテメェを信じると思うか、ナタリアが?」
「ぐっ・・・ナ、ナタリア・・・っ・・・!」
更にその仮定から三国に逃げ場がない、その上『アッシュ』の行動がどれだけ『ナタリア』という存在にとって信用に値しない物なのか。そう聞かされたアッシュは無念そうに声を上げるがやはり無駄にルークを恨みがましく見上げてくる辺り、逆恨みだということは認める気は無いのだろう・・・まぁ一連の流れをアッシュが被験者だと知った上でアッシュだけがさも自分こそが被害者なんだとアッシュが偉そうに語ればコロッとナタリアは転ぶ、という前例がルーク達の中にはあるが生憎そんなことをさせる気は全くないのでソレは頭の中からルーク達は一斉に追い出していく。
「・・・つー訳なんでな。お前が本物だとか偽物だとかそんなこと一切関係ない、罪があるから『アッシュ』として裁く・・・イオンに俺がお前にこんなことすんのはそれだけのことなんだ、異論は認めねーぞ。マルクトにとって認められるような言い訳なんざない。お前はそれだけの事をしちまったんだからな」
「テメェ・・・この屑が!俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねぇんだ、離しやがれ!」
「ビチビチ暴れてんじゃねぇよ、見苦しい。心配すんな、牢に繋がれるからってすぐに処分が下される訳じゃねぇんだ・・・精々期待してろよ、自分がこれから先も生きれるようマルクトが最大限の恩赦をかけてくれることをな・・・じゃあアッシュを含めてコイツら全員牢に入れてもらっていいですか?」
「はっ!」
「っ!テメェェェェッ!この屑がァァァッ!逃げんのか、あぁっ!?」
「っ・・・」
そんな光景を頭から消した後牢にでも入ってろと無慈悲に突き放すよう周りの兵士に連れていくようルークが言えば、尚もアッシュは立場を弁えず挑発し罵るよう叫ぶ。その声に眉をしかめたルークは仕方なしにアッシュの前に来て膝を屈めて視線を下げ、その広い額を指でトンと突く。
「心配しなくてもまた会いに来てやるよ・・・ただしその時は遠慮なく、殺してやるよ。それでもいいなら、な・・・」
「・・・っ・・・!」
・・・わかりきってはいたことだがここまでくればわかりあう余地などないし、わかりあったと思ってもその思いは果てしなく上っ面だけのガラス張りの平行線上にあるものをよく確かめもせずに見たもの以下の薄っぺらな物にしかなりえない。
アッシュが一方通行に溢れる身を焦がす激怒を自らに送るなら自分は静かだが触れば体全てを炭にするような怒りをくれてやる、そんな想いが込められたルークの純然に澄みきった膨大な怒りにアッシュは言葉を失い血の気を顔から失わせていた。その自身との格の違いに圧倒されるよう・・・










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