必然は偶然、偶然は必然 第十話

「リグレットてめぇ、いつこの屑と・・・!」
「あぁ?何を言ってんだよ、テメェ。テメェは俺にあそこで師匠の望み通りパッセージリングをぶっ壊して欲しかったっつーのかよ、オイ?」
「ぐっ・・・!」
だが自分の立場を完全に棚の上に置いたリグレットの裏切りを苛立つその態度に、ルークはそれを逆手に取った上ですぐには切り返しにくいように返しアッシュはどうとも返せず悔しそうに睨み付ける。
「それにだ、大体お前俺が偽者だって言って何がしてーんだ?」
「何が、だと・・・?」
「だってそうじゃねーか、今のお前はアッシュだっつっただろうが。それで俺が偽者だからどうしたい、またはどうして欲しいのか聞いてんだよ」
「・・・ふん、何を言ってやがる!テメェみてぇな屑は気に入らねぇから死ねばいい、そうとしか俺は思ってねぇよ!」
そんな様子に偽者だからなんだと言えば水を得た魚のように罵倒混じりに死ねと大きく声を上げるアッシュに対し、ルークの眼に声が一気に冷たさを増す。
「へー、俺に死んで欲しいのか?それでお前俺が死んだ後、何をする気だ?」
「・・・何を、だと・・・?」
「だって俺が死んだならファブレの家及び次期王に‘ルーク’って存在がなくなるわけじゃん。それで今アッシュのお前ってキムラスカ王家の血筋を絶やしたいのか、そうやって俺を殺すってことはよ?」
「そんなわけねぇ、ナタリアがいるだろうが!」
「んじゃ‘ルーク’って存在を亡くしたナタリアにお前、他のどことも知れない男と結婚するのを望むっつーのか?」
「っ!?何・・・!?」
その自分を果てしなく見下し迫力も備わった姿に始め押されていたアッシュだったがナタリアの事を無視したと思ってまた声を荒くする・・・が、それこそルークの引き出したかったアッシュのアキレス腱。自分が死んだならと仮定した上で以降を語るルークに、アッシュははっきりうろたえる。自分以外の男がナタリアを物にするのかと。
「ま、俺が偽者云々は置いといたとしてだ。‘ルーク’が死ねばナタリアは悲しむ、その上で叔父上達が取るだろう行動なんて王女の位に出来るだけ近い男を見繕うのが関の山だ・・・そんなナタリアの姿にお前したいってのか?」
「っ・・・それは・・・っ!」
・・・ただルークを殺したならその結末の果てにナタリアは確実にお前の望まない展開になる、そうルーク自身からそうしたいのかと言われればアッシュは全く予想だにしていなかったと動揺に何も返せず目を見開きプルプル震える。
(ま、こいつにはこう言った方が効くのは目に見えてたからな・・・かといって俺にはコイツを助けてやる気もないし、ナタリアも王女にいさせてやる気はねぇけどな。ましてやくっつけさせる気もないし、ナタリアと俺が結婚するなんてそれこそ論外だ)
そんな自分の予想通りの姿にルークは満足しつつも、後の展開の為にも王女にいさせないだけでなく絶対ナタリアはアッシュにも自分にもくっつかせる訳にはいかないと考える。アッシュとくっつけば血筋と被験者の立場の分面倒であるし、自分とくっついたらくっついたで敵になる可能性が高いと。
(まぁそう考えたら心から信頼出来る人と結婚はしたいけど、それは後に考えるとして・・・今はコイツだ)
・・・ルークはいずれ自分が王になると考えているが、その過程で自分の隣に王女として伴侶がいた方が示しがいいと考えていた。ウッドロウのようになるべくしてなった王が能力を遺憾無く発揮して一人でも引っ張っていく力があれば別だが、未熟な自分にはまだその力がないから支えてくれる人がいてほしいと。



そんな遠くない未来で自分には誰か隣にいてくれる人はいるか、そう思いつつもアッシュを片付ける為にルークは更に冷たさを増して口を開く。







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