必然は偶然、偶然は必然 第十話

・・・そこにあったのは何も言わず、それでいて不機嫌ながらもどこか嫌な予感でも感じているのか冷や汗を垂らすアッシュ。ここにナタリアがいたならティア達を擁護する言葉なり責められたりする声に対して反応していただろうが、それ以外には関心も信頼も寄せてないためにティア達が責められても何とも思わずただ黙っていたのだろう。だがこの会話の流れからして自分もこんな風になるのではと予想くらいはしているはずだ。



「とりあえず覚悟はしておいてください・・・さて、残りはアッシュ。貴方です」
「っ・・・何がだ、導師・・・」
それでティア達から視線を自らに向けられたアッシュは、声は強がってはいるものの怯えていると自白しているような探る視線を向けてしまう。
「まぁ色々聞きたいことに言いたいことはありますが、まずは1つ・・・貴方は、誰ですか?」
「・・・誰、だと・・・?」
「えぇ、簡単な質問だからそれくらいは答えられるでしょう?」
「馬鹿げたことを・・・今自分で言っただろう、俺はアッシュだ」
そんな中イオンから出された答えれない方がおかしいと言った質問を出され、拍子抜けと言わんばかりにアッシュは見下した答えを返す。
「ならば貴方は僕達の味方ですか?それともヴァンの味方ですか?それとも誰の味方でもないとでも言うつもりですか?」
「・・・何・・・?」
だが続いた質問は単純だったものから一転、アッシュにとって意味がわからないものへと変わった。
「何故、そんな事を聞きやがる・・・?」
「いえ、貴方の立ち位置がどのような物かを確認したいんです。貴方はヴァンの配下でありながらその企みを阻止しようとここに来ましたが、貴方はルークを何度も殺そうとした・・・そんな行動を見てどの立ち位置にいるのか、と言うのが気になったんですよ。だから答えてください、貴方はどの立ち位置にいるんですか?」
「・・・それは・・・俺はもうヴァンの下で動く気はないが、この屑の味方になったつもりもねぇ・・・俺は俺だ、何者でもない」
「成程、それが貴方の答えなのですね・・・安心しました。これで貴方の処置を遠慮なく伝える事が出来ます」
「・・・何・・・!?」
その問いかけにアッシュは戸惑いながらも自身の立ち位置はどちらでもない第三者だとルークを忌々しげに見てから言うが、その答えにイオンは納得したかと思えば清々しい程に爽やかな笑顔を浮かべた。



「アッシュ、貴方はもう神託の盾ではありません。神託の盾における特務師団長の地位、その名を導師の名の元に剥奪した上で貴方を解雇します」



「なっ!?い、いきなり何を言ってやがる!?」
そしてその口から導師として神託の盾の解雇という命を口にし、アッシュは血迷ったかと叫ぶ・・・自分で言ったことをすぐに忘れながら。
「今貴方が言ったではありませんか、自分はヴァンの味方でも僕達の味方でも誰の味方でもないと。それを僕は額面通りに受け取って判断しただけですよ、僕は」
「何・・・!?」
「だってそうではありませんか。アクゼリュスを滅ぼさんとしたヴァンの味方だと言うなら、その時点で大手を振って神託の盾にいれるわけもないくらいはお分かりでしょう。かといって僕達の味方でもないというのはおかしな話ではありませんか?こういうことを言うのは少し恥ずかしいのですが、僕は導師という立場にあります。その導師に味方をしないと言い自分は自分という発言は導師への背信と言えませんか?」
「っ!そんなの、屁理屈だろうが!俺はその屑が気に入らねぇから殺そうとしただけだ、それを一々背信だとかにまで繋げてんじゃねぇ!」
それでアッシュの考え方をこうだろうと本人に突き付けてやれば、アッシュにしては珍しく言葉面が屁理屈だと気付いて怒鳴り声を上げる・・・だがそれは屁理屈ではなく真実に繋げる、いや繋げさせる。それだけの論理は今イオンは持ち合わせている。だからこそイオンは出来の悪いクソガキにも分かるよう、笑顔のまま更に言葉を紡いでいく。










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