必然は偶然、偶然は必然 第十話

「これから全て終わってバチカルに戻ったとして、だ。お前が使用人としてこれまでの活動を報告する時、馬鹿正直に言えるか?私はこうこうこうでこんな経緯で俺や導師の不興を買いましたって」
「っ・・・!」
「そうだよな、そんな自分に不利になるようなことわざわざ言いたくはないよな?けどそんな甘くねぇぞ。俺も国の代表として派遣されている以上帰ったなら経緯の報告が必須になる。そうなったら今までの流れから、俺がお前に情けをかけるような配慮をすると思うか?」
「っ!」
・・・ルークは自身の思うガイにとっての最悪な展開にするには容赦はしない。バチカルに戻ってもガイに未来などない、俺が潰すと暗に示す声にガイは失言をしたくないからか何も言えずにビクッと震え恐怖を目に宿した。
「まぁ今までの報告をすりゃイオンが気分を害したってのもあって、どうあがいたってクビは免れられない。ファブレってキムラスカでは相当な名家で王家の血の流れを組む家が、そんな無礼をする輩を許す訳がないからな。だからそんな厳格なファブレの出す判決は最良はただクビ、最悪は弁解の余地もなく文字通り首が・・・」
「っ・・・そ、そんな・・・っ・・・」
更にリアルな未来を予想し最後に首は物理的に飛ぶだろうとトントンと自分の首筋を手刀で叩くルークに、ガイの顔が愕然としたものになる・・・が、ルークは見逃してはいなかった。そこから下がった顔にわずかに食い縛った口元があったのを。
(まぁ様子から見てこれで今までの長い雌伏の期間を経てのファブレへの復讐の機会が潰えた、っていう悔しさからだろうな。けどお前にゃもう1つ諦めてもらうぜ、気付いたら手詰まりの状況って風にな)
・・・以前であったなら紆余曲折ありながらもファブレへの復讐を納得はしつつ諦めたガイだが、今回は納得するための機会を与えることすらもルークは許す気はない。それどころか全てを奪うつもりですらいる・・・だからルークは復讐の炎を消せないガイに優しく見えるように微笑を浮かべ語りかける、それが最善であるかのように最悪にしかならない展開を。
「・・・まぁ一応今まで世話になっていたのは事実だからな、だから俺はせめてもの情けと思ってクビを宣告させてもらうぜ。ファブレに戻ったら下手すっと死ぬ、そうなるよりかはマシだと思うからな」
「・・・それは・・・」
「ま、自分からファブレに戻りたいってんならこれ以上は止めはしないけどな・・・どうする?まだ使用人としていたいんなら拘束解いてもらってバチカルまでしばらくは自由にするがその後は保証はしない、使用人のクビを選ぶんなら自由はなくなるがファブレの断罪はなくなる・・・さぁ、お前はどっちを選ぶ?」
「・・・・・・」
最後の情。そう付け加えられ究極の選択を突き付けるルークの声に、ガイは苦くもどうするべきかを考え沈黙する。
「・・・・・・わかりました、私はクビを受け入れます」
「・・・そうか」
そして長考から出てきたのは、やはり生きる事に希望が見えるクビの受け入れの声だった。その決断にただルークは重く頷く。
(・・・やっぱ命を取る前に取られたくはない、か。でも1つ言わせてもらうならやっぱお前、浅はかだよ。俺別にクビを受け入れたら死なない、なんては一言も言ってねぇぞ。むしろクビになったらなったで余計に立場危うくなるなんてことを考えないのは浅はか以外の何物でもないだろ)
そんな中ルークは心中でその判断の愚かさを嘲る。



・・・ファブレの使用人、今までのガイはその立場で動いてきた。だがそれをクビになった以上、ガイはどこにも所属していない無職の人間で何の後ろ楯も無いことになる。そんな立場になってしまえば罪人の始末は極端に言ってしまえばそこら辺の盗賊を退治するようなものと同レベルになるのだ、個人でキムラスカにダアトと言う国に対して無礼を働いてしまっただけに。

・・・確かにルークが報告をすればファブレに戻っても危険なのは間違いないが、すんなり連れていかれても危険なのは明白。それを理解していなかったのはガイが愚かと言えよう。だがルークがそうやってあえてファブレから離れさせたのには真の狙いがあるが、それはまた後々にわかることになる・・・







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