必然は偶然、偶然は必然 第八話

「やり直したいという気持ちがあるなら、それに従えばいい。辛いという気持ちがあるからこそ、君はそう言ったのだろう?」
「あぁ・・・だが本当にやり直せるのか、私は・・・?」
「言っただろう、やり直したいという気持ちが重要なのだと・・・それに正直な気持ちで言うなら、そうして欲しいと願う私がいるんだ。君と共に歩みたいと思う私がね」
「え・・・っ!?」
その顔をまっすぐ見つめながら尚悩む声を上げるリグレットに、ウッドロウは笑顔で傍目には口説き文句に見える言葉を向ける。リグレットはその声に涙を浮かべながらも驚く。
「今の君には誰かの良き支えが必要だ。そうしなければ君は状況に流されるまま何も出来ずにいってしまう可能性もある。だから私が君を支えたいと、それが君を悲しませてしまった私の責任だと思ったんだよ」
「・・・あ・・・っ!」
だが続いたウッドロウの声は口説くような言葉ではなくあくまで真剣にリグレットの事を心配したものだった。その中身に続きを自身で密かに期待していたのか拍子抜けと言った声を上げるが、その瞳から我慢していた涙が拍子で不意にこぼれ落ちた事からリグレットはポトポトと涙を落とし出す。
「っ・・・大丈夫かい?」
「・・・・・・ふっ、ふふっ・・・大丈夫だ、心配するな・・・その代わり・・・」
‘ギュッ’
「ちょっとだけ、こうさせてくれ・・・」
「っ・・・わかった」
その様子を見てウッドロウは少し慌てて声をかけるが、リグレットは相手の様子に涙を拭きもせず愉快げに笑うと代わりにその胸元に顔を押しつける。ウッドロウはその行動に一瞬だけ戸惑うが、その要望を了承する。



(・・・コイツは邪な心を持ってない、本気で私を心配してこう言っている・・・)
そんな中でリグレットは自身の中でウッドロウに対しての考えをまとめながら、心中で穏やかな声を上げていた。
(これがただの優男なら一笑にふしていたのだろうが、この男には確かな経験も力もある・・・信じてもいいか、この男なら閣下・・・ヴァンとは違ったより良い結末をもたらしてくれるだろうな・・・)
そして今までの流れを吟味した上で・・・リグレットはウッドロウを信頼出来る相手と判断した上で、ヴァンを切り捨てるような考えにまで至っていた。
(・・・本当に私は盲目になっていたんだな、マルセルの気持ちを考えずただ預言に復讐することだけを考えて、挙げ句の果てにマルセルのような預言の犠牲になる者を見捨てるヴァンに理論のすり替えをされてまんまと従うようになって・・・)
そうまで急激に自身の考えを変えれたのは、今になって冷静に昔を思い出せた事にある・・・元々リグレットは秘預言に詠まれた弟の死を隠蔽したダアトの闇を知りヴァンを殺そうとしたが殺せずその内ヴァンの目指す物を知って共に立つと決めたのだが、その時に話した会話の中身は今思えば上手い言い回しで恨みを預言にのみ向けるような中身だったと考えていた。
(情けないな・・・大分時が経った今こんなことに思い至るなんて・・・マルセルに胸を張って顔向けが出来んな、このままでは・・・だがだからこそやり直さねばならんのだ、この男・・・ウッドロウの言うようにな・・・!)
そんな事に気付けなかった自分に情けない気持ちが募るが、これからでもやり直せるんだとリグレットは強く決心する・・・ウッドロウ達と共にこれより動くのだと。



・・・もうウッドロウの胸の中のその瞳に、涙は浮かんでいなかった。









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