必然は偶然、偶然は必然 第八話

「・・・で、俺はそんなお前をバチカルに送り返す為にこうやって領事館に連れてきたんだよ。陛下の意向を無視したお前をな。けどこのケセドニアはキムラスカにマルクトの国境がある街でもある。だからマルクトと面倒を起こさない為にああやって国境を越えたんだ」
「・・・!」



・・・線を1つ越えれば他国になる。そんな場所で揉め事を起こし捕らえられれば裁く権利はその地を領有している他国にある。



自国の法が及ばない治外法権の地で問題は起こさない、そんな細やかな配慮に満ちたルークの行動にナタリアは愕然と目を剥き口を開く・・・察するに自分が7年今まで接してきた『ルーク』とは違う、とでも感じているのだろう。しかしまだ言い訳とそれでも行くとわがままを言われては面倒なので、ルークはすかさず追撃をかける。
「そして言っておくが、このままバチカルに戻って何のおとがめもなし、なんて事態はないと思っておいた方がいいぞ」
「・・・え?」
「・・・お前自分で2度も勝手に陛下の意向に背いていて、自分がやったことに対して帰った後怒られる事ないなんて思ってただろ。個人で来たことだからって。けど団体行動する時に定められたルールから何回も勝手に外れて行動してるヤツをほっとくほど、そこまで陛下は甘くねぇよ」
ルークから出た自身の処分に関する不穏な響きに気づけないナタリアは呆けた声を上げるが、その自身の危機に気づかない様子にルークは思わずタメ息を吐きそうになるが変わりに苛立ちを込め吐き捨てるように言葉をぶつける。
「まぁ予想される処分はどう少なくとも城から出る事は禁じられ、常に監視役の兵が付くようになるのは間違いないだろうな。向こうの判断次第じゃあるけど、それはまず間違いない最低ラインになる・・・だけどそれでも尚バチカルから出ようとしたらそれこそ陛下は考えざるを得なくなるだろうな」



「お前を王女から引きずり下ろす事も」



「なっ!?お父様が、私を・・・!?」
そんなナタリアだからこそルークはナタリアが取るだろう再三の行動の最悪の結果の予想をあっさり口にし、反論を封じるとともに再度の愚行への牽制を仕掛ける。
「2度ある事は3度あるって言葉があるのと同時に3度目の正直って言葉もある。その言葉に従えばお前は2回も陛下の意向に逆らって、その上で更に逆らえば許される可能性もあるけど許されない可能性がある・・・いや、あくまでこれは言葉遊びの例えで実際は許されない可能性の方がほとんどを占めるだろうな」
「そ、そんな・・・何故・・・」
「さっきも言ったけどお前がやってることは陛下の意志じゃないんだ。それを2度も覆す・・・これが普通の貴族だったら死罪もしくは最低貴族の地位の剥奪クラスの罪になる、それくらいの罪だ。けどお前はキムラスカの王女という他に代わりのいない位置にいる人間だ、その血が有る限りな」
「っ・・・」



・・・事実は全く違う、むしろ代わりだからこそ今こうやって王女という地位にいる・・・そのことをルーク達は知っている、だからこそ後にまた活きてくる・・・



しかしそんなことなど露程も知らないナタリアはルークの声を聞く以外の行動を取れず、ただ息を呑むばかりで何も出来ていない。
「だけどそれも流石に3度目を起こしてしまえばもう王の血があるからなどと言う言い訳も通用しないどころか、寧ろそうやって甘くすればお前の評価だけが下がるんじゃなく陛下の評価も下がる。それも著しく、だ・・・そんな事態にするくらいならお前を厳罰に処し王としてのメンツを保ち、国の平定に力を注ぐ。それが賢いやり方であり、陛下の取るだろう可能性の高い行動だ。例えそれが愛娘であり、次期女王だろうともな」
「・・・そんな・・・」
その上更にインゴベルトの立場を追加して取るだろう行動の仮定に、ナタリアは反論も出ずに意気消沈となりうなだれる。








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